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#131 【紙偉人】マサイアス・クープス~時代によって変わる紙を再生する意味~

『紙について楽しく学ぶラジオ/Rethink Paper Project』
このラジオは、「紙の歴史やニュースなどを楽しく学んで、これからの紙の価値を考えていこう」という番組です。
この番組は、清水紙工(株)の清水聡がお送りします。
よろしくお願いします。

【紙偉人】マサイアス・クープス

今回は、皆さんお待ちかね【紙偉人】の回です。
前回の【紙偉人】は、蔡倫でしたね。
今回は、蔡倫に続く第2回目です。


そして、今回ご紹介する人物は、マサイアス・クープスです!

「・・・?誰?」ですよね。
そのリアクション、正解です。
マサイアス・クープスについて、既によくご存知という方は、俗にいう変態です。

【紙偉人】第2回目にして、世間一般的にはド・マイナーな人物をぶち込ませていただきました。有難うございます。

でも、今回ご紹介するマサイアス・クープス、紙の歴史を語る上では、絶対に欠かせない人物なんです。絶対に、です。
いわゆる、No Coops, No Paperです。

皆さん、もう、クープスについて知りたくなってきていますよね。
それでは、クープスについて解説していきたいと思います。

イギリスの紙の歴史

マサイアス・クープス。
彼は、18~19世紀を生きた、イギリスの人物です。

18世紀のイギリスと言えば、そう、世界初の産業革命でイケイケの時代です。
それまでと比較にならないくらい、生産性が向上していきました。

クープスについてみていく前に、一旦、イギリスの紙の歴史を振り返りましょう。

イギリスと言えば、ヨーロッパの中では紙の歴史が浅い国です。
1495年にジョン・テイトが製紙工場を設立したのが、最初です。
でも、その後もイギリスの製紙業は、なかなかうまくいかなくて、紙は主にフランスからの輸入に頼っていました。
単刀直入に言いますが、この頃のイギリスは、紙を抄く技術が低かったんです。
低品質の紙は問題なく抄くことが出来るけど、印刷に適した白くてなめらかな紙は抄けない、みたいな感じです。

そんな、ヨーロッパで製紙技術後進国のイギリスに転機が訪れます。
フランスの宗教改革です。
この宗教改革で、プロテスタントの一派のユグノーがフランスから逃げ出します。
目的地は様々だったのですが、一部がイギリスにも逃げこみます。
このことによって、製紙技術の高い職人や実業家がフランスからイギリスに渡ったのです。

そして、ここから、イギリスの製紙技術は上がっていくことになります。
今までがウソだったかのように技術が進歩し、ありとあらゆる用途に適した紙を開発していきます。

こうして、製紙技術が確立したイギリスが、輸入に頼らなくて良くなったかというと、そうではなかったのです。
なぜか?原料が足りないからです。
当時のメインの原材料は、ぼろ布でした。
「製紙技術は確立していったが、肝心の紙の原材料が手に入らない。」
一つ大きな悩みが解決したと思ったら、また、大きな悩みが訪れます。
ここにメスを入れたのが、今回の主役、マサイアス・クープスなんです。

紙のインクを取り除いて再生する

紙の原料不足に関しては、色んな人が解決の方法を考えますが、クープスは、かなり早い段階から取り組み始めます。
彼は、主に2つの視点から、その問題解決にアプローチしていきます。

まず一つ目。
“ぼろ布以外の原料を探す”
これは、「そうだなぁ」って感じですよね。
ぼろ布が足りないなら、違う材料で紙が抄けないかと考えるのは、自然な流れです。

そして、二つ目。
これが革命的だったんです。
“印刷された紙を再生する”
再生紙と言えば、今でこそ当たり前ですよね。
でも、当時は、インクを取り除く技術がなかったんです。
なので、印刷された紙は捨てられていました。

クープスは、1800年4月28日、「紙からインキを取り除いて、もう一度パルプ化する」という技術の特許を取得します。
いわゆる、脱墨(紙からインクを取り除く工程)の技術を世界で初めて確立したわけです。
紙の原料が不足していた当時のイギリスにおいては、とても重要な発明です。

そして、この発明が、現在の再生紙に繋がっていくわけです。

時代によって変わる紙を再生する意味

再生紙に関しては、色んな意見があります。
「再利用する」っていうと、一見、良いことのように思えます。

実際、良いこともあります。
紙のリサイクルで言うと、江戸時代の日本は恐らく過去にも現在にも類を見ないくらいの先進国だったと、個人的には思います。
再生紙としては、「浅草紙(あさくさがみ)」とか「還魂紙(かんこんし)」が有名です。
この辺の話は、また詳しく話したいと思います。

なぜ、紙をリサイクルするのか?
昔と今では大きく意味が変わってきていると思います。

昔の場合は、紙の原料が貴重だったから。
さっきのイギリスの例もそうでしたが、紙の作る技術や需要は増えていく一方で、紙の原料が不足していくという流れ、これは、イギリスに限った話ではなく、世界中のありとあらゆる国でそうでした。
みんな、原料のぼろ布を集めるのに必死だったんですね。

そこに、すい星のごとく現れたのが、「木材パルプ」です。
木材パルプの出現によって、紙の原料不足に困ることは無くなりました。

でも、今度は別の問題が発生します。
「環境破壊」です。
紙を作る為に、世界中の原生林を破壊してきました。
ここでもう一度、紙を再生するニーズが高まったわけです。

紙を再生することで森林を保護できる、と安心したのもつかの間。
ここでまた別の問題が発生します。
実は、紙を再生するにも、大きなエネルギーコストを必要とするんです。
つまり、森林保護に繋がる紙のリサイクルも、地球環境にとってどうなんだ?という意見が出始めます。

そして今、管理された森林の木材で紙を抄きましょう。
こういう流れになってきています。

FSC認証紙なんかが、まさにそれですね。

紙の歴史を見ていくと、大きな問題が現れて、それがなくなったらまた別の問題が現れて。
これの連続ですね。

いかがでしたでしょうか。
今も昔も、紙のリサイクルは、紙業界のビッグイシューです。
印刷した紙をリサイクルする。
この問題に風穴をあけた人物こそが、マサイアス・クープスです。
皆さんも、資源回収で新聞や雑誌を出すときは、マサイアス・クープスのことを思い出してください。

という訳で、今回は以上となります。
本日も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

▼参考文献:『2冊のクープス-18・19世紀におけるイギリス製紙業-』中村進

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