ピアノソナタ第14番嬰ハ短調 作品27-2 『幻想曲風ソナタ』("Sonata quasi una Fantasia") ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン

(P)フリードリヒ・グルダ 1953年11月1日録音
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ナビゲーションに移動検索に移動

初版譜表紙 1802年

ピアノソナタ第14番嬰ハ短調 作品27-2 『幻想曲風ソナタ』("Sonata quasi una Fantasia")は、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンが1801年に作曲したピアノソナタ。『月光ソナタ』という通称とともに広く知られている。

概要
1801年、ベートーヴェンが30歳のときの作品。1802年3月のカッピによる出版が初版であり[2]、ピアノソナタ第13番と対になって作品27として発表された[3]。両曲ともに作曲者自身により「幻想曲風ソナタ」という題名を付されており[4]、これによって曲に与えられた性格が明確に表されている[2]。

『月光ソナタ』という愛称はドイツの音楽評論家、詩人であるルートヴィヒ・レルシュタープのコメントに由来する。ベートーヴェンの死後5年が経過した1832年、レルシュタープはこの曲の第1楽章がもたらす効果を指して「スイスのルツェルン湖の月光の波に揺らぐ小舟のよう」と表現した[5][6]。以後10年経たぬうちに『月光ソナタ』という名称がドイツ語や英語による出版物において使用されるようになり[7][8]、19世紀終盤に至るとこの名称が世界的に知られるようになる[9]。一方、作曲者の弟子であったカール・ツェルニーもレルシュタープの言及に先駆けて「夜景、遥か彼方から魂の悲しげな声が聞こえる」と述べている[3]。このように『月光ソナタ』の愛称と共に広く知られる以前より人々の想像を掻き立て、人気を博した本作であったが、ベートーヴェン自身はそのことを快く思っていなかったとされる[5]。なお、後述の尋常小学校の物語が引用されることがあるが、作り話である。

曲は伯爵令嬢ジュリエッタ・グイチャルディに献呈された[1]。ベートーヴェンはブルンスヴィック家を介した縁で自らのピアノの弟子となったこの14歳年少の少女に夢中になる[注 1]。1801年11月16日に友人のフランツ・ベルハルト・ヴェーゲラーへ宛てた書簡には次のようにある。「このたびの変化は1人の可愛い魅力に富んだ娘のためなのです。彼女は私を愛し、私も彼女を愛している。(中略)ただ、残念なことには身分が違うのです」[1]。その後、グイチャルディはヴェンゼル・ロベルト・フォン・ガレンベルクと結婚してベートーヴェンのもとを去っていく。この献呈は当初から意図されていたわけではなく、グイチャルディにはロンド ト長調 作品51-2が捧げられるはずであった。しかし、ロンドをヘンリエッテ・リヒノフスキー伯爵令嬢へ贈ることが決まり[注 2]、代わりにグイチャルディへと献呈されたのがこのソナタであったようである[1]。なお、ジュリエッタはアントン・シンドラーの伝記で「不滅の恋人」であるとされている。

曲の内容は『幻想曲風ソナタ』という表題が示すとおり、伝統的な古典派ソナタから離れてロマン的な表現に接近している[4]。速度の面では緩やかな第1楽章、軽快な第2楽章、急速な第3楽章と楽章が進行するごとにテンポが速くなる序破急的な展開となっている。また、形式的にはソナタ形式のフィナーレに重心が置かれた均衡の取れた楽章配置が取られ[12]、情動の変遷が強健な意志の下に揺るぎない帰結を迎えるというベートーヴェン特有の音楽が明瞭に立ち現われている[2]。

本作はピアノソナタ第8番『悲愴』、同第23番(熱情)と並んで3大ピアノソナタと呼ばれることもある。

演奏時間
約15-16分[1][4]。

楽曲構成

第1楽章
Adagio sostenuto 2/2拍子 嬰ハ短調
三部形式[1]。『月光の曲』として非常に有名な楽章である。冒頭に「全曲を通して可能な限り繊細に、またsordinoを使用せずに演奏すること」(Si deve suonare tutto questo pezzo delicatissimamente e senza sordino.)との指示がある(譜例1)。「sordino(弱音器)」とは「ダンパー」のことを指すとされ、冒頭の指示は現代のピアノにおいては「サステインペダルを踏み込んだ状態で」と解釈される

第2楽章
Allegretto 3/4拍子 変ニ長調
複合三部形式。スケルツォもしくはメヌエットに相当する楽章であるが、いずれであるとも明記されていない[13]。暗い両端楽章の間にあって効果的に両者を繋ぐ役割を果たしており、フランツ・リストはこの楽章を「2つの深淵の間の一輪の花」に例えた[3][12][13]。レガートとスタッカートが対比される譜例4により開始される[注 4]。

第3楽章
Presto agitato 4/4拍子 嬰ハ短調
ソナタ形式[13]。ピアノソナタ第14番としては、第3楽章のみソナタ形式となっている。堅牢な構築の上に激情がほとばしり、類稀なピアノ音楽となった[1][13]。急速に上昇するアルペッジョからなる譜例6の第1主題は、第1楽章の3連符の動機を急速に展開させたものである[4]。頂点のスフォルツァンドでダンパーが解放される[14]。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?