第14話 しっぽ

太陽がまだ顔を出さない内からこの島の猫達は動き出す。
僕と師匠はまた船場へと戻る事にした。

「みんな早起きですね~」
「というか、猫は夜行性だからな~。家猫として生きてるとどうしても飼い主の影響で昼型寄りになるんじゃがの~」
「師匠、僕ここに来て気付いたんですが、猫のシッポっていろんな長さと形がありますよね~」
「そうなんじゃよ」
「僕みたいな真っ直ぐなシッポが普通だと思っていました」
「なんだ?それ自慢か?」
「いえ~。そうじゃなくて~。ほら、例えば、あの猫、しっぽがカクって折れてます」
「あれは幸運を呼ぶといわれている鍵シッポだ」
「鍵シッポ?」
「オラも実は鍵シッポなんだぞ、ほれ」

師匠は僕にお尻を向け、しっぽを伸ばし見せてくれた。

「あ、上の方、少しだけ折れてますね!」
「じゃろ」
「でも鍵というよりは~耳かきみたいですね」
「・・・・・・」
「あっ!あの猫は何ヶ所も折れてますよ」
「稲妻シッポじゃな」
「確かに、何度もカクカクしてるから、稲妻のようです」
「おっ!あれは珍しいぞ、ガラケーシッポじゃ」
「ガラケーシッポ?」
「ひと昔前の携帯電話の様に折りたたまれてるんじゃ」
「本当だ~」
「開けないガラケーじゃがの」
「そうなんですか?」
「開けんな。シッポは小さな骨で成り立っているからの」
「へ~」
「あの猫は、しっぽが短くて丸いですね~」
「子豚みたいなシッポもおるわい」
「本当にいろいろですね~」
「大体は生まれつきなんじゃよ」
「なるほど~」
「あんちゃんがそろそろ来る頃だな」
「あ、あの若い漁師さん」
「大漁祈願してやらんと」
「そうですね!」

師匠はテクテクとあんちゃんの船へと向かった。

「お~!ジャスティン!」
「にゃ!」
「元気にしてたか~?今日は波も穏やかだし、ジャスティンにも会えたからな~期待できるかもしれないぞ~」
「にゃ!」 

あんちゃんは師匠の頭を撫で、そのまま背中からお尻に滑らせ、シッポの先まで触った。師匠はあんちゃんの足元に体を擦り付け、耳かきシッポ、いや、鍵シッポを高く伸ばした。

遠くから船が近づいくるのが見えた。夜中の漁にでた船が帰ってきたようだ。
よ~く、よ~く見ると船の先端には一匹の黒猫がいた。
「し、師匠!ね、猫が!ふ、船に!」
「ん?」

黒猫は船の上で優雅に風を感じていた。

「あの娘だな」
「えっ‼女子⁈」

僕はその船のメス猫に目が離れず、停泊するまで釘付けだった。
そして黒猫は漁師と大漁のイカと共に地に降りたった。

「何、ジロジロ見てんのよ!あたいの顔になんかついてるわけ?」
「い、いえ~」
「あんた、新入り?見ない顔よね」
「は、はい。訳あって、この島に来ました」
「ふっ」

黒猫は鼻で笑い、漁師の後をついて行ってしまった。
師匠はというと、あんちゃんの出港を見送りながら、ヨガの太陽礼拝のようなポーズで大漁祈願している真っただ中であった。
さっきの黒猫が小さなイカを咥えてやって来た。
イカの足が口元から垂れ下がり、少々不気味ではあったが、毅然とした態度で彼女に声を掛けた。
「船に乗るなんてすごいですね~。びっくりしましたよ~」

黒猫は咥えていたイカを下に置くと、

「新鮮なイカ、食べたことないでしょ」
「はい」
「食べな」
「えっ!でも・・・・・・猫はイカを食べると腰を抜かすと聞いたことがあります」
「あ?なんだって?少しなら大丈夫なんだよ!たくさん食べさせたらいけないってだけだ」
「そ、そうなんですね~」
「それに、漁師さんが内蔵を綺麗に洗って取ってくれてるから安心なんだ」
「そうですか。何にも知らなくてすみません」
「ったく」

黒猫は機嫌を悪くして漁師の元へ去っていった。
その頃、師匠の大漁祈願は無事に終わっており、師匠はイカを前にテンションが上がっていた。

「ご無沙汰だな~イカさんよ~」
「イカって食べたことありません」
「美味じゃよ~。新鮮なイカは滅多に食べれん!」
「折半しましょう!」
「そうじゃな、イカは消化に悪いからな」
「そうなんですね~」
「このイカ、あの娘からか?」
「はい」
「そうか、珍しい事もあるもんだな~」
「え?」
「あの娘は滅多に猫と喋らないで有名なんじゃ」
「そうなんですか?」
「猫が苦手な猫もいるんじゃ」
「そうなんですね~」
「因みにあの娘のシッポはどんなだったんだ?」
「鍵シッポでした!」
「幸運の女神じゃな」
「そうかもしれませんね~」

僕と師匠は新鮮なイカを食べ、腰を抜かすことなく腰を伸ばしてあんちゃんの帰りを待つ事にした。