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パートにも健康診断を受診させなければいけないか

今回はパートタイマーに対する健康診断の適用の話です。

1 パートタイマー労働者への健康診断適用の問題点

 企業では、パートタイマー労働者へ健康診断を受診させるか迷う場合が多く、よくわからないまま、「正社員じゃないから」「パートだから」と受診させていない状況になっている例もあるのではないでしょうか。

これは健康診断に限ったことではありませんが、採用から退職までの労働条件に関係する多くの場面で、「パートである」という理由だけで正社員と異なる扱いをしていることがあるかと思います。機会がありましたら、客観的視点で検討しておきましょう。

健康診断の場合、パートタイマーを理由に受診させないことが問題になることがあります。パートタイマー労働者へ健康診断の受診義務があるか否かの要件は後述しますが、受診義務が発生するパートタイマーと発生しないパートタイマーがあります。

したがいまして、パートタイマー労働者という括りで、すべてのパートタイマー労働者に健康診断を受診させていない取り扱いが問題になる可能性があります。

2 健康診断には2種類ある

 健康診断という場合2種類あります。一つは、労働安全衛生法上の健康診断、いわゆる、法定健康診断です。もう一つは、法定外の健康診断、企業独自で設定している任意の健康診断です。

 就業規則の条文をよく読んで、どちらの健康診断なのか確認しておく必要があります。もっとも、一つの健康診断しか定めていない場合には、法定健康診断のことだと考えていいかと思います。法定健康診断は必ず受診させる必要がありますから(パートタイマー労働者の場合は一定の義務要件があり=義務内容は後述)。

今回の記事のパートタイマー労働者への健康診断の適用の話は、法定健康診断になります。

3 法律等による健康診断受診の判断

 労働安全衛生法は、「常時使用する労働者」に健康診断を実施せよと決めています(以下参照)。


【労働安全衛生法施行規則】
(雇入時の健康診断)
第四十三条 事業者は、常時使用する労働者を雇い入れるときは、当該労働者に対し、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。ただし、医師による健康診断を受けた後、三月を経過しない者を雇い入れる場合において、その者が当該健康診断の結果を証明する書面を提出したときは、当該健康診断の項目に相当する項目については、この限りでない。
※項目は省略
(定期健康診断)
第四十四条 事業者は、常時使用する労働者(第四十五条第一項に規定する労働者を除く。)に対し、一年以内ごとに一回、定期に、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。
※項目は省略

そこで、「常時使用する労働者」にパートタイマーが含まれるのか否かが問題になります(以下「平成19年10月1日基発第1001016号通達」参照)。

(1)期間の定めのない契約により使用される者であること。なお、期間の定めのある契約により使用される者の場合は、1年以上使用されることが予定されている者、及び更新により1年以上使用されている者。
(2)その者の1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分3以上であること。

つまり、厚生労働省は、①無期雇用労働者もしくは有期雇用労働者で1年以上雇用(見込みを含む)され、②週の所定労働時間が、通常の労働者の4分の3以上である労働者が健康診断の対象であるとしています。

この①と②は両方満たす必要があります。これは、「常時使用する労働者」に入るか否かの考え方を厚生労働省が示しているものです。

企業内では、「社会保険が適用されているパートタイマー労働者は健康診断を受診するように」などのように案内しているケースもあるかと思います。

これは、上記の健康診断の受診要件が社会保険の原則の強制適用要件と同様であることに起因します。

これが法律の規定と行政解釈による健康診断の対象となる労働者です。厚生労働省の「常時使用する労働者」に該当するパートタイマーの場合には、健康診断を受診させる義務が発生することになります。

なお、厚生労働省は、週の所定労働時間が通常の労働者の4分の3未満でも概ね2分の1以上であるパートタイマー労働者については、健康診断を受診させることが望ましいとしていますので、職場では、パートタイマー労働者の労働時間にかかわらず、健康診断を受診させておくことが間違いないと言えます。

4 就業規則による健康診断受診の判断

 3の法令・行政指針にかかわらず、就業規則でパートタイマー労働者にも健康診断を受診することを明記している場合には、パートタイマー労働者に健康診断を受診させなければなりません

就業規則の条項が、健康診断を希望するパートタイマー労働者には健康診断を受診させる旨の内容の場合には、3で記載しました厚生労働省の2要件を満たすパートタイマー労働者は当然に健康診断を受診させたうえで、その義務の対象とならないパートタイマー労働者には、本人が受診を希望した場合には、健康診断を受診させる必要があります。

加えて重要になるのは、健康診断を受診するパートタイマー労働者と受診しないパートタイマー労働者が出るため、何も説明がなければ、受診するように命じられたパートタイマー労働者も、命じられないパートタイマー労働者も、疑念になって就労の士気に影響してくることが考えられます。

法令や就業規則に基づいて、事前に説明をしておくことが肝要です。

就業規則によるパートタイマー労働者への健康診断の受診命令における注意点は、その就業規則が、パートタイマー労働者にも適用される就業規則なのかを把握しておくことです。

正社員用の就業規則しかない企業は、正社員用の就業規則がパートタイマー労働者にも適用すると評価される可能性がでてきます。

正社員用就業規則以外にパートタイマー労働者用の就業規則がある企業では、パートタイマー労働者用就業規則に基づいて判断することになります。

5 労使慣行による健康診断受診の判断

 最後に、就業規則にパートタイマー労働者に健康診断を受診させる規定がない場合です。

3の厚生労働省の「常時使用する労働者」の要件を満たすパートタイマー労働者に対しては、法令等により、健康診断の受診ということになります。

問題は、それ以外のパートタイマー労働者に対してです。就業規則には何も規定がないことを根拠に健康診断を受診させなくてもいいとしてもかまわないかということです。

たとえ何ら規定がなくても、それまで例年、パートタイマー労働者に健康診断を受診させてきた実態がある場合には、労使慣行により受診させることになる可能性があります。


以上のように、パートタイマー労働者に対する健康診断は、「パートタイマー」だからと受診させない結論を出してしまうと問題になるリスクになります。段階的に十分に検討して、法違反、契約上の違反などがないように取り扱いましょう。

【特定社会保険労務士 亀岡 亜己雄】


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