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境井さんちの仁ちゃん。

本当にどうかしていると思いました。

何の話かって、ゴーストオブツシマです。鎌倉時代の対馬、蒙古襲来をモチーフにしたオープンワールドゲーム。

世界的に売れまくっているようで、日本でも少し前まで方方で話題になっていましたね。

発売日に買ってからほぼ毎日ダラダラとプレイしていたんですが、昨晩(今朝?)本筋をクリアしまして。

アクションゲームが得意じゃない自分でもサクサク進めるくらいのちょうどいい難易度で、そういう意味ではとても楽しめたのですが、問題は、ストーリーです。

この作品、舞台設定はどシンプルです。

ある日突然、対馬に蒙古軍が襲来。島の侍はあっさりと全滅させられ、島は蒙古軍に占領されます。ほぼ唯一生き残った侍・境井仁(さかい・じん)は、蒙古から島を救おうと立ち上がります。

ですので当然モチベーション(物語を進める理由)は「島を救うこと=蒙古を倒すこと」になるわけですが、ここで2つ、重要な前提条件があります。

1つは、この境井仁が、ガッチガチの「侍道」の人だということ。

侍と言えば戦うことが仕事なわけですが、境井仁は幼い頃から「誉れ(ほまれ)ある戦いをせよ」と厳しく教えられています。侍たるもの正々堂々戦わねばならぬ、卑怯なことをする者は侍に非ず。そういうある種の”洗脳“を受けた状態でこれまでの人生を生きてきました。

この”洗脳”あるいは”呪い”を強力にしているのが、幼い頃に目の前で死んだ父の姿です。賊に襲われ息子(境井仁)に助けを求める父、しかしまだ幼く臆病だった仁は恐ろしさのあまり父を見殺しにしてしまう。

この後悔が、トラウマが、その後に周囲から与えられる「侍道」の教えに、彼自身を追い込んでいくのです。父を殺したのは自分なのだ、あのときの自分は未熟で戦う勇気がなかった、誉れがなかった……だからこそ自分は誰よりも誉れある「侍」にならねばならない。

仁はそして成長し、若いながらも周囲に名を知られる侍になりました。

さて、これを踏まえて2つ目の前提条件。
とても残酷な前提条件。
それは何か。

無理なんです。
何百人もいる蒙古に、1人で勝てるはずがない。

先述したように、仁は対馬の侍の唯一の生き残りです。生きているのは百姓ばかりで、戦力になる仲間などいやしない。

“誉れある戦い”しか知らない仁は、大勢の蒙古軍に堂々と近づいていき、「我こそは境井仁である!」と一騎打ちを申し込みますが、あっさりと集団に囲まれ、ほうほうのていで逃げ出します。

ちなみに、侍の中で仁だけが生き残ったのには理由がありました。野盗である「ゆな」という女性によって、戦場から救出されたのです。

「ゆな」は野盗であると同時に、殺しの手段を選ばない殺人鬼でもありました。つまり、仁が知らない、あるいは避けてきた、卑怯な殺しを知り尽くした女なのです。

ゆなと行動を共にするなかで、仁は葛藤します。島は救いたい、だが、侍としての戦い方では、蒙古を倒せない。侍としての誉れと、対馬の未来。やがて天秤は後者に傾き、仁は徐々に、(ゆなに手ほどきを受けながら)卑怯な殺しに手を染めていくのです。

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これがこのゲームの基本的な舞台設定、およびモチベーションです。

自分の場合、アクションやグラフィックの綺麗さより、このストーリーにハマりました。

幼い頃からの教えを、洗脳を、呪いを、迷いながらも「殺し」という圧倒的な体験を重ねることで解いていく。彼の敗北は彼の死、つまりは対馬の死を意味し、一方で、彼の勝利は、彼だけでなく島全体の生存を意味する。

蒙古を殺すたびに増えていく「侍としての罪」は、勝利のたびに近づく「対馬の未来」で上書きされる。やがて仁は、闇討ちはもとより、相手の酒樽に毒を仕込んで大量虐殺を行うまでの<冥人(くろうど)>となっていく。

さて、長い前置きでしたが、本題です。

ネタバレになるので詳しくは書きませんが、このゲーム、エンディングに救いがなさすぎました。

美しく降る紅葉、その波間を縫うアゲハチョウ、霞んで重なる山川、尺八が奏でる抽象画のような音色、

そして、日本刀。

主人公(仁)とラスボス(意外な人物)は、二人に縁深い非常に美麗な景色の中で対峙し、共に涙を流しながら殺し合いに臨むのです。

勝たねば、死にます。

だから僕は、勝ちました。

崩れ落ちるラスボスは最後に仁に言うのです。

「我に、誉れある死を」

奇妙なことに、僕、いや仁は、それを言われた瞬間、すっと心が冷めるのを感じました。

僕は、いや仁は、それを聞いてこう思った。

「何を甘っちょろいことを…」

……かくして仁の洗脳は、呪いは解け、彼は新しい人生を生きることになったのです。

罪人という、人生を。

めでたしめでたし。

……じゃねえよ、っていう笑

最後に後出しのように加えますが、実はこのゲーム、製作しているのは海外の会社です。黒澤明の映画、日本の時代劇が好きで好きでたまらないという人たちが、”彼らが思い描くクールな日本”を具現化したのがこのゲーム作品というわけです。

彼らにとって、このゲームはこう終わらねばならなかった。

敵を倒し、姫を助け出し、そして仁は英雄として語り継がれ……てはならなかった。

わかる気がします。

そして、このエンディングに違和感、どころか、「マジかよ」と口に出してしまうくらいのショックを受けた僕は、彼らが思う日本人ではもはやないのでしょう。

ということで、ゴーストオブツシマ、最高で最低のゲームでした。

まあ、まだサブクエが残ってるんで、プレイは続けるんですけれど。なんだか、気が重いなあ。

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