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労働相談の受け方~労働相談の進め方~

労働相談の目的を達成するために重要なことは、まず相談者との信頼関係を構築することであり、そのためには相談者の話すことを傾聴すること、傾聴の基礎をなすものは受容と共感的理解にあるということを、前回のブログで書きました(前回の記事はこちら→労働相談の受け方~傾聴のための「受容」と「共感」~)。

今回は、私たち労働相談を受ける者の技術的側面について書いてみます。

傾聴の基礎をなす受容と共感的理解は私たち労働相談を受ける者の相談を受けるときの意識の在り方です。これに対して労働相談を受ける技術というのは意識が表現された外形的在り方になります。私たち相談を受ける者が、相談を受ける技術に従って相談を進めることで、相談者は緊張が解け不安を忘れ、より多くのことを語り、その語りの中から多くの情報を提供することになります。

労働相談の受ける技術は、大きく二つの柱があります。一つは労働相談の進め方、他の一つは労働相談を受ける際の身体的言語的技法です。また労働相談の技術を補完する要素としての相談を受ける物理的環境の整備もあります。

まず労働相談の進め方についてです。

相談の進め方としては、相談過程を大きく、導入展開結びの三段階に分けて進めます。

導入は、相談者(と相談を受ける私たち)の緊張を解きほぐして、これからの相談を進めやすくするための準備段階です。
相談者は、初対面の人に対して相談をするということで、当初は多少なりとも緊張していますし、不安もあります。そしてそれは相談を受ける私たちにしても同じことです。特に行政の相談窓口には、毎日いろいろな人が相談に訪れますが、中にはちょっとヤバそうだなと身構えてしまうような人もいます。また、相談を受ける私たちが、相談者の数が多く休憩を取る間もなく次の相談者に対応する場合には、前に受けた相談を引きずって脳みそがリセットされていないこともあります。ですからまずは相談者の緊張を解きほぐすとともに相談を受ける側の私たちの息を整える意味でも、軽い会話(お喋り)から始めます。これをアイスブレイキングといいます。
まずはあいさつ。「おはようございます」「こんにちは」、相談者を待たせた場合には「お待たせしました」などです。それから自己紹介。「私は相談員の奥村です」または「社会保険労務士の奥村です」など。次に簡単に当たり障りのないお喋りをします。一番無難なお喋りはその日の天気の事や、相談場所までどうやって来たのかといった移動手段あたりです。例えば雨の日であれば「天気がお悪い中お越しくださいましてありがとうございます。濡れませんでしたか。」とか、「今日はどうやってここまで来られましたか。」といったお喋りから入ると無難です。時事ネタや政治経済、スポーツ(特に野球)辺りはアイスブレイキングで用いるネタとしてはよくありません。相談者の思想信条や、趣味、嗜好、そういったところに触れる内容は、相談者の感情を刺激して、アイスブレイクにならないことがあります。特に初対面の相談者にはしてはいけません。

軽いお喋りから入って、相談者と相談を受ける私たちの緊張がほぐれたら、次は展開の部分に移行します。

展開の部分では、相談者がどういった悩みで相談に訪れたのかを知るための、相談者からの話を聴取する時間になります。この時間が相談を受ける私たちにとって最も大切な傾聴の時間となります。
展開ではまず、Open Question(「開かれた質問」と言ったりもします。)から相談者の事情を聴いていくことになります。Open Questionとは相談者に、項目を特定せず、自由に話をしてもらう尋ね方です。質問の仕方としては「今日は、どういったご相談でお越しですか」というようになります。Open Questionにより相談者は、色々と悩み事や疑問に感じていることなどの話を始めます。その内容は相談者自身に降りかかった出来事、出来事に対する相談者の思いや感情、評価、法律違反なのかどうかといったことなど多岐にわたります。
このときの相談を受ける私たちの態度は受容と共感的理解を基礎とする傾聴です。相談者が話す内容によっては、明らかに法律に違反することや、相談者の権利としては認めがたいようなこともあります。また、そもそも法的に解決を図れるようなことではなく、世間話に近いようなこともあります。明らかに倫理道徳上問題があるのではないかということもあります。しかしだからと言って、相談者が話をしている途中で、相談を受ける私たちが相談者の話を遮るようなことをしてはいけません。ましてや、そこで相談を受ける私たちの評価基準に基づいて事の善悪といった倫理道徳的な評価などしてはいけません。Open Questionを受けて相談者が話をしているその話が終わるまでは、傾聴に徹しなければなりません。
相談者の中には話の途中でしばらく沈黙することもあります。こういったときは相談者を急かさず、次の言葉が出てくるまで静かに待ちます。時には相談者の中には感極まって、涙を零すこともあります。こういったときに私たちは相談者に同情する必要はありませんが、相談者は辛く感じたんだということを共感的に理解することに努める必要があります。
Open Questionで相談者が話をしている内容でキーポイントとなる出来事についてメモを取るべきかどうかということがあります。これはケースバイケースということになりますが、メモを取る必要がある場合でも、必要最小限にとどめて、聴くことに全神経を集中させるべきかと思います。私は可能な限りOpen Questionではメモを取らないようにしています。

Open Questionで相談者の悩みの原因となるおおよその事件の概要が把握できたら、次は、法的に意味のある事実、民事事件であれば要件事実に該当する主要な事実や間接事実等について、労基法違反等の公法違反であれば構成要件に該当する具体的事実等について、的を絞った質問を行います。こういった質問をClosed Questionといいます。
Closed Questionでは、例えば相談者のOpen Questionで聴き取った内容から残業代を請求したいということが分かれば、具体的な残業時間や残業代の計算の基礎となる賃金項目やその額、残業時間の記録の有無、業務の具体的な内容等を、的を絞って聞いていくことになります。質問の仕方としては「何時間くらい残業をしていましたか」「お給料の内容は、例えば手当等はどういったものがありましたか」といったように具体的な事実について答えを求める、または「タイムカードはありましたか」「パソコンを使って仕事をしていましたか」といった「はい」または「いいえ」といった答えができるような方法になります。Closed Questionは聴くから聞くそして場合によっては訊くということになります。

Closed Questionが終わったら、結びとなります。
結びでは、相談者の話しから得られた情報を総合して、法律上の権利義務と指導言った可能性があるのかを説明したり、どういった解決方法があるのかを説明します。賃金の不払いや解雇予告手当の不払い等労基法違反の疑義がある場合には、まずは相談者自身でその支払いを求める文書を作成しこれを郵送するなどの方法で使用者に催告をすることや、使用者が相談者の催告に応じない場合で、相談者が行政による調査や指導を希望する場合には労基署に申告すること、等を説明します。
相談者が、企業内でのハラスメントの調査や防止を希望する場合は、労推法や男女雇用機会均等法に基づく労働局の紛争解決援助のための助言等を説明します。
相談者が、解雇や雇止めの効力、損害賠償請求等民事上の紛争解決を希望する場合には、そういった請求を根拠付ける法的に意味のある具体的事実(要件事実)や紛争解決の方法(個別労働関係紛争解決促進法に基づく労働局の助言やあっせん、裁判所の民事調停や労働審判又は訴訟等)を説明します。
相談者の悩が公的保険に関するものである場合(例えば雇用保険や健康保険等)には、対応する各機関(ハローワーク、健保協会や年金事務所)を案内することになります。
相談者の悩みが労働法外に関すること(例えば源泉徴収票の未交付や請負代金の未払い等)であれば関係する省庁等(税務署や中小企業庁の下請かけこみ寺)を案内することになります。

労働相談の内容が、社労士としてその後の業務につながるようであれば、結びのところで料金等の説明をすることもあります。

以上が相談の進め方です。労働相談を受ける技術のもう一つの要である身体的言語的技法についてはまたの機会に述べたいと思います。

文責:社会保険労務士おくむらおふぃす

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