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担当医と私の奇妙な時間。

交通事故による後遺症治療がはじまってから3ヶ月が過ぎた。椎間板ヘルニアと左上半身の痺れを緩和させるために運動療法・対症療法を続けている。

施術中、担当医からいつも人生相談や愚痴聴きを頼まれるという関係が続いている。恋愛、人間関係、トラウマ、コンプレックスなど内容は様々だ。私の筋肉の隙間に指を差し込みながら別れた恋人とのトラブル解決法を聞いてくる。

施術が終わるといつも、「私が治療費を払わないとな」と担当医は言う。たしかに病院内の喫茶店でコーヒーの1杯でも奢ってもらってもよいだろう。

とはいえ私はプロのカウンセラーではない。臨床心理士や公認心理師などの国家資格を取得していない無免許の相談屋だ。タイミングよく相槌を打ってうなづく事に定評があるので相談依頼がちらほらある。よくフクロウっぽいと言われるのはこの仕草からきているのだろう。

担当医は漫画の世界から飛び出してきたトラブルメーカーのようなキャラクターだ。体癖で言えば左右型3種らしい見た目をしているので病院内の多くの人に愛されている。

しかし、語尾の渇いた笑いや声のゆらぎに耳を澄ましてみると、明るく振る舞ってはいるが相当闇を抱えているのがうかがえる。コロナ禍以降、病院業務全体に張り詰めた空気が流れているようで退職者も多いらしい。

私は交通事故以降、杖が無いとまともに歩くこともできず、左上半身の痺れで体を起こすのも大変だった。左腕に刺激が加わると電流が流れるような感覚に襲われていたので仕事も趣味もまともにできず、精神的にもかなり参っていた。

そんな私がほぼ不自由なく日常生活を過ごせれるようになり、社会復帰も目指せる状態にまで回復したのは担当医のおかげだ。せめてなにか恩返しができれば、という思いで相談を受けるようになった。

……というのは後付けの理由だ。相談屋を営むフクロウはホーホーと鳴きながら人の話を聞くのが好きなだけだ。治療を受けながら悩みを食べて満腹になった私はもうすっかり眠くなって帰宅するなり布団で眠るのであった。

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