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とある一室で

窓の外の空を見上げた
青くて、雲がぷかぷかと浮かんでいた

青紫の歯形をなぞる指
天井には男と女、シワのよったシーツ

部屋いっぱいに広がるタバコの匂い
混じり合う煙と新しい匂い

眩しくて影に隠れたけど
もともと立派な背中を神々しくするだけだった

手を伸ばして思わず背骨をなぞった
一瞬筋肉を寄せ、心地よい顔が覗く

「おはよう」
「おはよう」

微笑みは私だけのものじゃなくて
口づけだってすぐにタバコに奪われる

鏡の前に立って一つ一つ体に残された色を見る
もも、脇腹、腕、首

ベットの端の下着に手を伸ばす
ソファからシャツを取ってボタンをかけていく

手櫛でまとめた髪を
開けられたばかりのヘアゴムで束ねる

カバンを取れずに後ろに引き戻される
髪から伝わる痛みと口に広がるタバコの味

首に巻かれた細い指が軌道を塞ぎ
手首を押さえる爪が食い込む

緩んだ首元と同時にヘアゴムが落ちる
暗くなりかけた目の前が次第に明るくなっていく

口に広がるタバコと鉄の味
微笑みと苦しみが混じり合う匂い

窓の外の空を見上げた
青くて、雲は無かった

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