ヨク

「これで」
今日差し出したのはラップ
前回はタオルだった
君の手首のアザに気づく人も増えてきたし
面倒になる前に次、探さないとなあ

俺らは一年前、夏の始まりに出会った
まだ6月だというのに
じっとりとした空気に舐められた肌を
照りつける太陽が焼いていた
そんな暑さの中現れた後輩ちゃん
真っ黒な髪と瞳が清楚さを物語っていた
終電2日連続で逃した俺とは住むところが違う
きっと真面目で
クラブなんて行ったことがない
こうやって、呼び出して
綺麗で妖艶で吸い込まれそうなその顔で
この世のモノでは無い表情を見せて
あの時は想像もしてなかっただろうけど

「もっと」
それが欲じゃないことくらいわかる
別になんだっていいけど
君の瞳の光が消えかけていることは
目に見えた
そのスピードが異常なことも
その光が助けを求めていることも

気づかないフリをするのは簡単
でも関係を続けるのは面倒
それでも、こんなに安上がりで
便利な玩具はなかったから
手放すのはどこかもったいないし
代わりを探すのも面倒だった
君にさよならって言われたら
すぐに手を振れる
だけど君は言えない
俺の言葉で身体で、繋ぎ止めているから

君が闇に呑まれていけば行くほど
携帯は踊り、俺を呼び出す
女って単純だよな
特に君みたいに汚れを知らない真面目な子は
好奇心と罪悪感に勝てないから
地に足をうまくつけていられないって
繋いでやってるんだから
追加料金頂けますか

俺と出会ってなかったら
足は浮いてたかもよ
最近の君はもう浮いてるかもね
あんなに大事にしてた自分を
こんな風に扱って
そんなに動いたらまた跡が残る
壊れそうな顔で「痛い」って言いながらも
波打って自分の存在を確かめる
魂と、身は同じか
この世に生きているのか
違う世界にいるのか
今にも崩れそうな繊細な目で
狭間を見ながら
どこか笑を浮かべていて
甘く真っ赤に染められた実から
漏れ出す音たちは
悲痛とも快楽とも呼べる
そんな不気味な色をしていたから
もうすぐだってわかった

髪に残った薔薇の匂いを落とす
一万程度の花束で大抵半年は持つ
こいつは遊ぶ時ににいつも着てた
43℃の中
「ありがとう」
必ず送ってくる、満足してないのに
どうでもいい、ただの5文字
あのさ、悪いけど
面倒なことになる前に逃げようと思って
どこで何してるなんて知らないけど
きっとどこかで乗り換えた
結局はそんなもんだよなあ
女なんて

「着いた」
新調した玩具が携帯を躍らせる
鳴った呼び鈴を止めるために
踊る携帯を手に玄関へ走った

あれ、君が消えた日に
「ねえ、前の子はどんな子だったの?」
俺はなんて言ったっけ
「ねえ、聞いてるの?」
君との舞が恋しいはずなんて無いのに
何か隠してるのって言われたから
何もって言ってやったよ
だって君がこの世にいないかもなんて
存在すら否定することになる
それにそんなこと言ったら
どこかで苦しむ君と俺の
墓を掘るのと同じだから
腕の中でうずくまる君を
終わりに感じられないのと同じだから

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