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ある日のさんぽ道

寒波は人から起き上がる意欲を奪う。
もともと冬は苦手。
年末年始の休暇の間、冬眠動物になってしまった。

惰眠を貪る。
3度の飯の時間にはふらふらと起き上がると食べたいものを食べる。
そして満腹は眠りを誘い、寝床へと運ぶ。
 
クマは冬眠中、一切食事をしないらしい。
生産性はクマ以下である。
 
そして仕事始めの1月5日、使いモノにならない自分に愕然とする。
増えた脂肪の厚みでパンツは入らず、動作を忘れた膝は立ち上がると痛い。
 
ヤバすぎる・・・。
脂肪を脱がねば・・・。
 
とりあえずは散歩がてら、近くのコンビニまで歩いてみようか。
 
いやいや、ちょっと待て。
ここは人口50万にも満たない地方の町。中心部から離れた山と田んぼに囲まれた田舎。
ちょっと買い物といっても車が必須。遠い。無理。

弱音が頭がよぎった瞬間、コンビニまでの距離と時間を知らないことにも気づいた。
 
真夏は緑、秋は赤や橙、今は濃い灰色に変化した山を背にして家を出る。
暖かい時期、おばちゃんたちのうわさ話のようにさえずる鳥たちの声は1つも聞こえない。
 
2分も経たないうち、グレーベージュ色に変化した藁に覆われた田んぼが目に入ってくる。
 
肌がジリジリと焼ける夏、生き生きと風にそよいでいた濃い緑の広大な絨毯は、その色彩を
失い、刈り取られた後の稲わらは真白な霜を纏っている。
 
田んぼの真ん中を北方向へ貫く一本道を独り歩く。
もたついた頬をチクチクと刺す冷たい風。
慌ててマスクを着ける。
マスクの上のメガネは呼吸のリズムに合わせて毎回ちがう白い絵を描き始めた。
 
近道の細いあぜ道に入ると、近く遠くに犬の散歩をしてる人たち。

散歩になっているのか疑問になるほど、飼い主に抱きかかえられたままのチワワ。
首がもげるのではないかと思うほどリードを引っ張られても動かない柴犬。
足元のおぼつかない飼い主に寄り添いながらゆっくり歩くレトリバー。

デレデレ顔とムツゴロウさんのように撫で回したい衝動を、マスクが上手く隠してくれた。

あぜ道を抜けると田んぼは視界から消えた。
赤い丸と白い丸の集団が近づいてくる。

赤白帽子をかぶった小学生たちだ。1年生だろうか。
「おはようございまーす」元気に手を振りながら、丁寧にお辞儀をしながら、恥ずかしそうに
目を伏せながら、子供達はすれ違う人みんなに挨拶をしている。

その屈託のない笑顔と無垢な声にじんわりと目に滲む涙に戸惑っているとコンビニが見えてき
た。
  
手元のApple Watchはウォーキング時間33分、距離は3.1km、消費カロリー123kcalを
表示している。

のどが渇いた。
今日はブラックコーヒーじゃなく、ミルクとシロップたっぷりのカフェオレのLサイズ。
一気に飲み干した容器に書かれたカロリーは219kcal!

私の脂肪はまだまだ脱げそうにない。

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