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危機をチャンスに変える〜『私たちはどこへ行こうとしているのか 小熊英二時評集』

◆小熊英二著『私たちはどこへ行こうとしているのか 小熊英二時評集』
出版社:毎日新聞出版
発売時期:2016年6月

小熊英二の時評集としては『私たちはいまどこにいるのか』につづく第二弾。2011年から2015年にかけて公表した時評類を収めています。

反原発デモに関する論考は、あくまで前向きな論調が良くも悪しくも印象的。東日本大震災後に行なわれた衆議院選挙で反原発を訴える政党が伸びず投票率が振るわなかった点にもポジティブな要素を見出そうとしているのはいかにも小熊らしい。

……棄権が多かったのは、入れたい党や人がどこにもいない、そもそも今の政治の制度に納得できない、と思う人が多いこととほぼ同義です。政治の正統性が落ちているということですから、国としては危機ですよ。でも、今の「民主主義」のあり方に対する疑問が広がるのは、悪いことではない。考え直したり、変わったりすることにつながりますからね。(p67)

とはいえ現下に進んでいる政治状況は、民主主義のあり方に対する疑問と同時に、民主主義それじたいへの疑問や無力感が顕在化したものともいえるように思えます。棄権の多くは単に政治に無関心なことのあらわれではないかとの疑いも拭えません。安倍政権の横暴に歯止めがかかる兆しを見出すことの困難さを思えば、政治を再考したすえにどのような構想や実践が生み出されるのかが厳しく問われる局面を迎えているといえるでしょう。

地域の再活性化のヒントになりそうな題材を扱った次の章では、話が具体的であるぶん読み応えを感じました。とりわけ朝鮮学校のルポルタージュ的な文章は示唆に富んだ内容です。

憲法問題や戦後史について考察した一連の文章も文献を丹念に読み込む小熊の特長がよく出ているように思います。なかでも〈改憲論の潮流〉がおもしろい。善き生の追求という観点から憲法問題を考察していて、憲法学者にはない切り口で興味深く読みました。

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