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令和日本で生き抜いていくために〜『死なないノウハウ』

◆雨宮処凛著『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』
出版社:光文社
発売時期:2024年2月

貧困問題に関する数々の著作をものし、困窮者支援の現場に身を置いてきた雨宮処凛が「死なないノウハウ」を伝授してくれる。コンセプトは明快です。六つの章に分けて、それぞれの分野に詳しい専門家のアドバイスをもとに、様々なケースにおける官民のサービスを紹介してくれています。「働けなくなったら」「お金がなくなったら」「大病をしてしまったら」「「親の介護が必要になったら」「家族や友人とトラブルになったら」……。

金欠に対しては、住居確保給付金、高等教育の修学支援新制度、生活福祉資金、遺族年金、そして生活保護。医療関係では、無料低額診療、難病医療費助成制度。失業や賃金未払に対しては、解雇予告手当、雇用保険、未払賃金立替払制度、労災保険、傷病手当金……。

こうして列挙されると、日本の公的な福祉制度はそれなりのレベルではないかと思えてきます。ただし広報が決定的に足りません。積極的に広報すると利用者が増えて財政を逼迫すると為政者たちは考えているのでしょうか。

また本書の良さは、実利的な制度やサービスの紹介にとどまるものではありません。たとえば社会人としての心構えを説いた、プレカリアートユニオンの清水直子・執行委員長の次のようなアドバイスも非常に有益だと思われます。

 学生時代に、先生や先輩とか、立場が上の人の言うことを聞くものだという規範を内面化している人は多いですが、そのままの意識で働くと、命が危ないことが多いです。その規範は、社会に出たら疑った方がいいのです。……基本的に、職場でおかしいと思ったことは、8割方、会社の方に非があると思っていい」(p118)

ちなみに入居金六千万円の高級老人ホームに潜入した報告がコラムとして挿入されていて、金持ちには金持ちなりの「つらさ」があるらしいことが記されてもいます。ふ〜ん。

いずれにせよ、ここまで生きていくことに関して網羅的に官民の制度やサービスを紹介してくれた本は今までなかったと思います。文字どおり「死なない」ノウハウを具体的に学べる本といえましょう。

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