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マイノリティーであることの自覚〜『オーバーヒート』

◆千葉雅也著『オーバーヒート』
出版社:新潮社
発売時期:2024年3月(文庫版)

千葉雅也としては『デッドライン』につづく二冊目の小説です。表題作に加え、川端康成文学賞を受賞した短編「マジックミラー」を併録しています。

「オーバーヒート」は大阪に住むゲイの大学教員が主人公。「今やリベラルで先進的だと見られたければ、LGBTを支持「しさえすればよい」ような空気」に苛立ちを隠しません。LGBTは普通だと考え、マジョリティの仲間に入れてくださいというお涙頂戴の懇願とは無縁のマインドで暮らしています。これは千葉自身のスタンスともいえるものでしょう。

誰もが何かの面ではマイノリティーでありうる。そう自覚することが大切だと千葉はメディアのインタビューに答えています。その言葉どおり、本作の主人公〈僕〉もマイノリティーのプライドを生きている人物として造形されているのです。私にはよくわからない世界が描かれているのですが、そのような世界に触れることも小説を読むことの悦びには違いありません。

加えて本作は、宇都宮、東京、大阪──という三都物語的な要素もあって、その意味でも興味深い。

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