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本読みの記録(2016)

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ブックレビューなど書物に関するテキストを収録。ブログ「ブックラバー宣言」に発表したものをベースにしていますが、すべての文章について加筆修正をおこなっています。対象は2016年刊行…
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#加藤典洋

若者におくる生き延びるための知恵〜『転換期を生きるきみたちへ』

◆内田樹編『転換期を生きるきみたちへ ──中高生に伝えておきたいたいせつなこと』 出版社:晶文社 発売時期:2016年7月 社会のさまざまな分野で綻びが目立つようになってきた昨今、既存の考え方では通用しない時代がやってきた、そのように言う人が増えてきました。 人はとかく自分の生きている時代を歴史的に過大に意味づけたがる習癖がありますから、そうした紋切型の認識には注意が必要かと思いますが、とにもかくにも今や「歴史的転換期に足を踏み入れた」のだと思う人が多いことは間違いありませ

〈災後〉の社会を生きていく〜『日の沈む国から 政治・社会論集』

◆加藤典洋著『日の沈む国から 政治・社会論集』 出版社:岩波書店 発売時期:2016年8月 日本の戦後を考えるとき、国内的文脈と国際的文脈とのあいだにはズレがあります。さらに東日本大震災とそれに伴う原発事故の後、「災後」の問題が浮上してきました。加藤典洋の認識に従えば、災後の社会はそれ以前の社会とは異なった思考が求められているのです。それは端的にいえば「有限性」をめぐる問題です。戦後は終焉したが、災後の社会をいかに生きていくのか。本書はその問題を構想した一連の文章を中心に収

「正義」の発生するところ〜『憲法9条とわれらが日本 未来世代へ手渡す』

◆大澤真幸編『憲法9条とわれらが日本 未来世代へ手渡す』 出版社:筑摩書房 発売時期:2016年6月 憲法九条に関して、社会学者の大澤真幸が三人の論客に意見を聞くという趣向です。登場するのは中島岳志、加藤典洋、井上達夫。一般に流布する「護憲/改憲」の枠には収まらない議論という触れ込みではありますが、そもそも護憲論にも改憲論にも様々なヴァリエーションがあるのは昔から当たり前の話で、ここでは三人とも明確に改憲論を披瀝しています。末尾には大澤自身の改憲論も収められています。 中