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本読みの記録(2017)

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ブックレビューなど書物に関するテキストを収録しています。対象は2017年刊行の書籍。
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2018年1月の記事一覧

カラーが示す深い意味と豊かな味わい〜『世界の美しい色の建築』

◆大田省一著『世界の美しい色の建築』 出版社:エクスナレッジ 発売時期:2017年10月 建築と色の関係についてきちんと論及した書物はあまりないようです。大学の建築学科でも色について教わることはほぼないらしい。たしかにこれまで親しんできた建築に関する書物は大半が、フォルムについて、あるいは都市計画との関係について論じていたように思います。建築史のなかで色が話題にされることが少なかったのは何故なのでしょうか。 建築が色を語らないのは、意識のうえでの問題でもあった。ルネサンス

日本人は何を得て、何を失ったのか〜『明治維新150年を考える』

◆一色清、姜尚中他著『明治維新150年を考える 「本と新聞の大学」講義録』 出版社:集英社 発売時期:2017年11月 朝日新聞社と集英社による連続講座シリーズ「本と新聞の大学」。本書は第5期の講義を書籍化したものです。講師陣は、民俗学の赤坂憲雄、憲法学の石川健治、財政社会学の井手英策、ノンフィクション作家の澤地久枝、小説家の高橋源一郎、映画監督の行定勲。モデレーターはいつものとおり一色清と姜尚中。 2018年は明治維新から150年にあたります。この歴史上の画期に様々な観

神話、武士道、儒学、明治維新……『日本思想史への道案内』

◆苅部直著『日本思想史への道案内』 出版社:NTT出版 発売時期:2017年9月 日本の思想や哲学などの人文科学は、口の悪い人からは「ヨコのものをタテにしただけ」としばしば指摘されてきました。西洋語で書かれたものを日本語に置き換えただけだではないか、というわけです。そのような認識もあってか、日本の思想を歴史的に検証するということはあまり熱心に行なわれてこなかったようです。「日本思想史」なる学問が確立されたのはそんなに昔ではなく、1930年代といいます。 私たちの社会で営ま

これからの時代を豊かに生きていくために〜『観光客の哲学』

◆東浩紀著『ゲンロン0 観光客の哲学』 出版社:ゲンロン 発売時期:2017年4月 意表をついた標題がまずは目を引きます。観光客の哲学。これまで人文学的には注目を集めてきとは言い難い存在=観光客に着目して、さて東浩紀はいかなる哲学を差し出そうとしているのでしょうか。 21世紀の世界は、政治の層と経済の層、ナショナリズムとグローバリズムの層、国民国家の層と帝国の層……の二層構造で捉えられる。つまりグローバリズムが地球を覆い尽くしたわけでもなく、国民国家間の境界が溶解したわけ

誰もが受益者になる〜『財政から読みとく日本社会』

◆井手英策著『財政から読みとく日本社会 ──君たちの未来のために』 出版社:岩波書店 発売時期:2017年3月 若年層向けの岩波ジュニア新書のなかの一冊。著者の井手英策は財政社会学の研究者です。標題どおり財政から日本社会の構造を分析し、これからの社会のあり方を探究する入門書です。 日本社会を財政の観点からみると、どのような特色をもっているでしょうか。小さな政府。福祉国家をささえてきた女性への負担。公共事業に依存した財政。……などなど諸外国と比較した場合にいくつかの特徴を見

モデル無き時代を生きていく〜『不安な個人、立ちすくむ国家』

◆経済産業省若手プロジェクト著『不安な個人、立ちすくむ国家』 出版社:文藝春秋 発売時期:2017年11月 安倍政権は経済産業省の官僚を重宝しているといわれています。それと関連しているのかいないのか分かりませんが、経済産業省は2016年、「次官・若手プロジェクト」を立ち上げ、翌年5月にレポート〈不安な個人、立ちすくむ国家〜モデル無き時代をどう前向きに生き抜くか〜〉を出しました。 プロジェクトでは「富の創造と分配」「セーフティネット」「国際秩序・安全保障」の3つのチームに分か