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本読みの記録(2018)

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ブックレビューなど書物に関するテキストを収録しています。対象は2018年刊行の書籍。
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2019年3月の記事一覧

計算社会科学で情報化社会を読み解く〜『フェイクニュースを科学する』

◆笹原和俊著『フェイクニュースを科学する 拡散するデマ、陰謀論、プロパガンダのしくみ』 出版社:化学同人 発売時期:2018年12月 フェイクニュースが政治を大きく動かす時代がやってきました。2016年の英国のEU離脱に関する国民投票や米国大統領選挙では、人々を惑わす虚偽情報がインターネットを中心に大規模に拡散し、大きな社会問題になったのは記憶に新しいところです。フェイクニュースの流通は確信犯的なものから不注意の連鎖によって引き起こされるものまで多様多様ですが、以前にもまし

憲法を意識し憲法と対話する〜『憲法問答』

◆橋下徹、木村草太著『憲法問答』 出版社:徳間書店 発売時期:2018年10月 これまで私が読んできた憲法に関する対談や座談の記録は、もっぱら護憲の立場から考えの近い者どうしが集まって安倍政権を批判しつつ立憲主義を考える類の本でした。もちろん有益な読書体験ではあったものの、時に退屈することもなきにしもあらずだったように思います。 そこで『憲法問答』です。互いに遠慮なく異論をぶつけあう対論はそれなりにスリリング。はっきり意見が対立する場面でもさほど感情的になることもなく、議

古典から平成の新作まで〜『上方らくごの舞台裏』

◆小佐田定雄著『上方らくごの舞台裏』 出版社:筑摩書房 発売時期:2018年12月 上方落語に関する薀蓄や芸談といえば故桂米朝の著作が群を抜いて優れていると思います。講談社文庫に入っている『米朝ばなし』は上方落語愛好家には必読の書といっていいでしょう。実演者以外の書き手ということなら、やはり落語作家として活躍している小佐田定雄が真っ先に想起されるでしょうか。 本書は上方落語の演題38席を取り上げ、その解説に加えて、十八番にしていた落語家やゆかりの芸人の思い出話を盛り込んで

多様な学問を多様なスタイルで〜『学ぶということ』

◆桐光学園、ちくまプリマー新書編集部編『学ぶということ 続・中学生からの大学講義1』 出版社:筑摩書房 発売時期:2018年8月 ちくまプリマー新書と桐光学園の共同によるシリーズ企画〈中学生からの大学講義〉の一冊です。登場するのは、内田樹、岩井克人、斎藤環、湯浅誠、美馬達哉、鹿島茂、池上彰。 それぞれの講義内容は大半がこれまでの著作で展開してきた自説をわかりやすく話したもので、その意味では個々の講師陣をよく知る読者には新味はないかもしれません。 内田は「生きる力」について

単純明快な「真実」には注意すべし〜『陰謀の日本中世史』

◆呉座勇一著『陰謀の日本中世史』 出版社:KADOKAWA 発売時期:2018年3月 「陰謀」とは辞書によれば「ひそかに計画する、よくない企て」とあります。古代から現代に至るまで人間社会では日常的に行なわれてきた行為といえるでしょう。ただし歴史で問題になっている「陰謀論」をそのような当たり前の語義で理解してはいけないらしい。 本書では「陰謀論」について「特定の個人ないし組織があらかじめ仕組んだ筋書き通りに歴史が進行したという考え方」と定義しています。ある出来事について特定