憲法問答_Fotor

憲法を意識し憲法と対話する〜『憲法問答』

◆橋下徹、木村草太著『憲法問答』
出版社:徳間書店
発売時期:2018年10月

これまで私が読んできた憲法に関する対談や座談の記録は、もっぱら護憲の立場から考えの近い者どうしが集まって安倍政権を批判しつつ立憲主義を考える類の本でした。もちろん有益な読書体験ではあったものの、時に退屈することもなきにしもあらずだったように思います。

そこで『憲法問答』です。互いに遠慮なく異論をぶつけあう対論はそれなりにスリリング。はっきり意見が対立する場面でもさほど感情的になることもなく、議論が乱れることもありません。

橋下の立憲主義理解は最近よく喧伝されているものとは少しニュアンスが異なります。公権力を縛るものというよりも「憲法と対話し、ルール化し、そのルールに基づいて権力を行使する」ことを求めるものと捉えるのです。

 何が正解かわからないから、手続きを踏み、それが正解だと擬制するのが立憲であり民主主義。だからこそ、とりあえずしっかりとした手続きを踏み、手続きが完了したものは正解だと擬制するしかない。(p124)

その際、立憲主義を公権力の縮小に向かわせるだけでなく、政治権力を積極的に動かす方向にも意義を見出しているのがミソです。
そうした認識は、文脈は異なりますが、高度経済成長期に高度な福祉国家を求める左派の人々が、立憲主義を単に公権力を縛るものと考えずにのびのびと政策が展開できる方向で捉えようとした考え方を想起させるものです。

多くの紙幅が費やされている九条に関わる安全保障の問題については、当然ながらかなり細かな議論が展開されています。安保法制をめぐる議論がもっぱら「違憲/合憲」の枠組みでしか議論されなかった点を橋下が批判しているのは一理あるかもしれません。
ただし矢部宏治らによって日米間の歪んだ支配/被支配構造が明らかにされている問題で、米国との関係強化といった観点を繰り返し強調する橋下の安保法制肯定論は浅薄な印象を拭い難い。

それに関連して憲法よりも上位にあると指摘されている日米合同委員会や密約に関して木村はどう考えるのか興味津々だったのですが、その点について一切言及がないのにも拍子抜けしました。矢部が詳らかにした一連の事実は、憲法学者にとってはやはり「知ってはいけない」ものだったのでしょうか。

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