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女、ひとり旅

早速だが、今日は一人旅の感想を書いていきたいと思う。

5日(日)の朝、早々に目覚めた私はおにぎりとウインナー、玉子焼きを平らげ8時過ぎには家を出た。

朝からこれだけ食べた理由は、家を出るまでにお通じがないと長旅が不安だから!

そして無事、電車に乗り一人旅スタート!

今回の目的地は京都の夕日ヶ浦。
前々から興味があったので、今回行けることになって本気で喜んだ。
旅行の3日前に電話口で職場の先輩に旅行に行く話をしたら「え、私も行きたい!」とのことで、私も二人で行くのも楽しいだろうからぜひ行きましょう!と誘った。
彼女のテンションも最高潮に上がり、行くしかない!という空気になっていた。
ただ、彼女は中学生の子持ちで、子供の友達が家に泊まりに来るのだと言う。
それでも、火が付いた彼女は「何としてでも行けるように動いてみるわ!」と意気込んでいた。
私は大いに期待しながらも、拭いきれない不信感と共に、彼女の返答を待った。

彼女からの連絡をしばらく待ってみたが、一向に連絡がない。
行けるなら、早めに宿に連絡しないといけない。
行けないなら行けないで、こちらの旅行の準備もあるので早く言ってほしい。
私からの連絡を未読にし続けた彼女への苛立ちが増し、私から「今息をしているかどうか」の質問の連絡をしてみた。
すると「生きてるよ笑笑」という、なんともヘラついた返事が返ってきた。
その時点で「あ、多分行けないんだろうな」と察した。
軽い文章も、おそらく行けないという返信をしてくるであろうという予想も、私の苛立ちをさらに増幅させた。

案の定、彼女の口から「行けることになったよ!」という言葉を聞くことはなかった。

彼女に会ってから返事が一向になかったことに対する嫌味を皮肉交じりで伝えたところ、「動けるように精一杯動いてたんよ!」とのことだった。
それならそれで一言言ってくれてもいいではないか。
「今、頑張って動いてるからちょっと待っててね」の一言がなぜ言えない?
これが来週再来週の話であれば納得できるが、明後日の話だ。
こちらからしたら、一切連絡がなくてちゃんとわかっているのかさえも不安になるのは当然ではないだろうか?
さらに腹が立つのが、こういう人に限って彼氏や気になっている人からの連絡が遅いとものすごい勢いで文句や愚痴を言う。

この経験を経て私は絶対にこの人を自分からは誘わない、と決めた。
彼女から誘ってきた方が合わせられる確率も高いし、断られるショックを味わいたくない、という理由もある。
彼女にも断言している。
「あなたを誘うことは二度とないです」と。

そんなこんなで、無事私の一人旅が始まった。

一人旅と聞くと「寂しくないの?」と聞いてくる人がいるが、愚問である。
寂しいと感じるくらいなら一人旅なんて行かない。
それに私は一人暮らしを10年ほどしているので、一人に慣れきっている。
「ご飯食べて美味しいって思っても、共有できる相手がいないのって、やっぱりちょっとねぇ」と言われたこともある。
二人で食べたとて、必ずしも二人とも美味しいと思っているとは限らない。
一人で行くということは、相手の顔色を伺う必要が一切ないというメリットがある。

例えば、自分が立てたプランで旅行をしたとき、相手は楽しんでいるだろうか、疲れてはいないだろうか、この金額が内容に見合っていると思ってくれているだろうか、と、どうしても考えてしまう自分がいて、それはそれで気苦労も多い。

確かに二人以上で行く旅行にも楽しさはたくさんあるし、私も嫌いではない。
しかし、ペースが合わない人が一緒だとそれに気づいた瞬間から家に着くまでが地獄と化す。
早く一人になりたい、帰りたい、とそればかりが頭を覆いつくす。

自分が立てたプランであっても、参加者が自分一人であれば、すべては自己責任だ。
お金が高くても納得できるし、急遽内容を変更しても誰にも文句を言われる心配もない。
ハッキリ「それは嫌だ」と言ってくれる相手ならまだしも、「あの時は苦痛だったよ…」と後々告白される方が辛い。

そんな無償の自由さも知らずに、「一人で旅行なんて寂しくないの?」と言ってくる人とはそもそも旅行に行きたくないし、行くことは一生ない。(相手もきっとそう思ってる)
そんなこと言ってくる相手はきっと普段から相手に気を遣わせている側だと容易に予想がつく。
そもそも相手の気持ちを汲む人は、これから一人旅に行く人に向かって、一人旅を非難するようなことは言わないはずだからだ。

話を戻そう。

今回の私の旅のお供は一冊の文庫本だ。
前日に古本屋で調達してきたうちの一冊を選んで持ってきた。
3冊とも、私がこよなく愛している湊かなえ先生の小説で、その中から「物語の終わり」というタイトルの小説を選んだ。

裏に書いてあるあらすじを読むと、どうやら舞台は北海道らしい。
その小説に出てくる数人がさまざまな問題を抱えながら、北海道へ一人旅をする、という話だった。
一人旅というワードに惹かれ、今の私にちょうどいいのではないかと感じ持参したのだが、読み終えた今だからこそ心底この本を選んでよかったと思う。

この小説に出てくる人たちの中には、私との共通点がたくさんあったからだ。ありすぎるほどに…。
私のために書かれた小説ではないだろうかと勘違いしてしまうほどに、私の趣味や今後の仕事のこと、彼の趣味との共通点まであって、驚きの連続だった。

これから夕日ヶ浦へ行くというのに、北海道に向かっているかのような錯覚すら起こしていた。

なるべく交通費を浮かせたかった私は、特急に乗らずに4時間半かけて夕日ヶ浦に到着した。
ここに来るまでの道は、谷底や大きな川、田園風景などがあり、田舎好きの私としては上々の景色の中来ることができた。

到着したのは13時半。
いくら朝食を大量に平らげたからと言って、この時間になるとお腹は空く。
ラーメンを食べようかと思っていたが、近くに蟹がメインのお土産屋さんがあり、そこでは海鮮丼が食べられるということを知った私に他の選択肢は残されていなかった。

程よい大きさの海鮮丼をものの数分で平らげた私は、私より先にうどんを食べ始めた人を横目で見ながら宿へと向かった。

チェックインは15時からだったが、大きな荷物を預けたくて先に寄ることにした。

大きな女がボサボサの状態で旅館に入ってきたものだから、旅館の従業員である年配の女性も最初は真顔での対応だったが、こちらの名前を名乗った途端に想像以上に笑顔になった。
一人で宿泊するとかなり割高になる。
三人ほどが泊まれる部屋を一人で陣取ることになるので、当然と言えば当然なのだが、それでも感謝してほしいくらいにお金は払っている。

荷物を預かってもらい、身軽になった私は海を目掛けて歩き出した。
駅近の旅館だったので、便利ではあるが、海までは歩いて片道30分かかった。
ものすごく厚い中、安い折り畳みの日傘を差して海に向かう。
風が強かったため、何度も傘が裏返り、地味に恥ずかしかったのが印象的だ。

なだらかな坂を上り、団地を抜けると、青や緑がたくさん入り混じった広い海が見えた。

やはりGWなので人が多い。
水着を着て泳いでいる子供たちもいる。
私も足だけでも浸かりたいな、と思いながら波打ち際まで行ったが、スニーカーに靴下という海には不向きの恰好だったためやむなく断念した。
広い海と水平線を見られただけでも満足だった。

それにしても暑かった。
もう少し黄昏たかったのだが、人の多さと暑さで滞在できる時間はかなり限られていた。
本来であれば、海の匂いや潮風を感じながら読書の続きをしようと考えていたのだが、こんな暑い中で読書なんかしてられっか!という感情が大きく上回ったため、早々に旅館に戻ることにした。
また30分歩くのか…と思ったのは言うまでもない。

旅館に着く前に近くのローソンで缶チューハイ2本と限定のポテトチップス、アイスを買って旅館に戻った。
部屋は広く、目の前は田んぼだった。
海の近くの旅館にしたらよかったかな…と一瞬思ったが、私は田んぼに生息している蛙の鳴き声を聞くのがたまらなく好きで、それが聞こえてきた瞬間にすべての不満が消え去った。

16時から入浴できるとのことだったので、それまでに読書をし、時間になると温泉に向かった。
すでに数人が入っている。
様々なお風呂があるわけではなく、内風呂と露天風呂のみ。
だが、露天風呂があるだけで私は満足だった。

身体を洗うとすぐさま露天風呂に向かい、温泉の匂いを感じながらゆっくり浸かる。
温泉の硫黄の香りがとても好きで、温泉に入っているんだなぁとしみじみと思わせてくれる香りだった。

入浴と外気浴を何度か繰り返し、満足した私はお風呂を後にした。
また夕飯後に温泉に浸かるから、とスキンケアは適当に済ませ部屋に戻った。
少し迷ったが、先に1本缶チューハイを開けることにした。
と言ってもほろよいなので、アルコール度数も知れている。

ただ、お風呂上りで乾ききった私にはわずかなアルコールが全身に染み渡った。
いい気分になりながらも読書をして過ごした。

時間になったので夕食を食べに、食事の会場へと向かった。
懐石料理が運ばれてくる。
小食の方に満足していただけるプランです、と書いているだけのことはあって、すぐに料理はすべて出揃ったようだった。
「これですべて出し終わりました!」と仲居さんが元気よく言うので、もう終わったのだと思い、部屋に戻ろうとすると「お客さま、デザートがございます!」と大声で引き止められた。
日傘が何度も裏返るよりも恥ずかしかった。

そして出てきた最後のデザートが大きなロールケーキだった。
「料理長の手づくりです(ドヤァ)」と言われるとものすごく残しにくくなる。
料理を食べ終わってちょうどいいくらいであったが、そのロールケーキを食べたことによってお腹が爆発しそうだった。

しっかり食べきり、部屋に戻る。
少し休憩をしたら再び温泉に浸かろう、そう決めていたはずなのに。

こともあろうに、私は爆睡してしまい、起きたときには午前3時半になっていた。
もう風呂は空いていないし、もし仮に空いていたとしても丑三つ時に入るのには勇気が必要だった。

仕方なく、再度眠りにつこうとしたが、なにしろ20時から寝ていたので、どうにも目が冴える。
さらに外では雨風が強くなり、「この宿壊れるんじゃ…?」と思うほどに天候は荒れていた。
さらに3時半だと言うのに、なぜか踏切のカンカンカン…という音が聞こえてきてそれもまた恐ろしかった。
恐怖のあまり、彼に電話したがもちろん出ずに、やむを得ず無理やり目を閉じた。
そこからの眠りは浅く、何度も何度も目が覚めたが、最終的に6時過ぎに起きることができた。
朝の温泉は6時半からなので、いい時間に起きられたことを嬉しく思いながら大浴場に向かった。
今回もすでに数名がすでに温泉に浸かっているようだった。

朝日を浴びながら浸かる露天風呂は最高に気持ちがよく、夜に入るのとはまた違った心地よさがある。

それに、その宿は男湯と女湯を日を跨ぐと交代する仕組みになっており、朝に入った浴場の方がかなり立派であった。

風が強く、ビューっと吹くたびに草や葉っぱが湯船に入ってくるが、そんなことは一切気にしない。
気になるような人は露天風呂には向いていない。
虫の死骸が浮いていたり、蛙が泳いでいることなんてざらにある。
それもすべて楽しめてなんぼ!である。

露天風呂から上がった私は昨日同様、満足げに部屋に戻り、だらだら過ごした。
本を読んでいたところ、彼からの電話が鳴った。

午前3時半に目が覚めたときに、着信を残しておいたので、起きてかけ直してきた。

本来であれば、彼から会おうと打診されていた日だった。
電話するまでは会う気は一切なかったのだが、温泉にも浸かり、あとは帰るだけだった私としては、なんだかもうひとスパイスほしいな…というような気持ちになっていた。
彼からも会うことを再び提案され、まんざらでもない気持ちになっていた私は、瞬く間に電車のサイトを開いた。
彼が住んでいるところに寄ろうと思うと特急に乗らないと会う時間が遅くなってしまう。
会う時間が遅くなるということは帰る時間も遅くなるということだ。
それは避けたかったので私は金に物を言わせ、特急で帰ることにした。

彼が「俺が特急の予約しておくよ!」と気を利かせてくれ、万事がうまくいっているかのように思えた。

それから私は大急ぎで朝食を食べ、その足で駅に向かった。

駅に自動改札はなく、駅員は再雇用を思わせる老人が一人だけ駅員室にいた。
豊岡までの切符を買い、電車を待っていたが一向に電車がこない。

その間も彼とずっと電話を繋いでいたのだが、見かねた彼が「駅員さんに聞いてみたら?」と言ってきたので、駅員室を覗くと、なんとその駅員はパソコンに向かって麻雀ゲームをしていた。

多少の苛立ちを感じた私は、思い切り駅員室の小窓を叩き、「電車こないんですけど!」と言うと、駅員は慌てて画面を切り替えて他の駅の情報を収集し始めた。

慌てふためいた駅員は「風の影響で30分ほど遅れとる!」と小窓の前の私に向かって叫んだ。
麻雀ゲームしている場合じゃないだろうに。

特急に乗り換えることを考えると、彼が予約してくれた特急にはどうしても間に合わない。
せっかくの彼の労力を無駄にするようで申し訳なかったが、その列車はキャンセルし、新たな特急に乗ることを考えた。

なんやかんやあったが、昼には彼と合流することができた。
ようやく乗れた電車の中でもレモンサワーを飲みながら本を読んだ。
JRで小汚いおじさんがワンカップを飲んでいる姿を見ると、なんとも言えない気持ちになるが、今日から私も仲間入りだ。

そして、これをもって私の一人旅は幕を閉じた。
この旅を終えて私が得たもの、感じたことはなんだろう、と考えたりはしない。
そんなことのために一人旅に行ったわけではない。

ただただ贅沢がしたかった、温泉に入りたかったし、人が作った温かいご飯が食べたかった。
畳の匂いのする部屋で敷布団に埋もれて眠りたかった。
それらが叶っただけで、私は行ってよかったと思う。

ただ、旅行後に彼とのデートというハードプランを熟した私の顔に笑顔はなかった。
家路に着いた私は無の境地、いや、疲労一色となっていた。

旅行するにも体力を考えないといけないな、と改めて思った。
年齢を重ねると旅行の日取りが慎重になるのだと初めて知ったが、いい勉強になった。
今度はもっと近場で行こう。
交通費がかからない分、夜のマッサージでも頼もうかな。

こうして私はどんどん一人旅の沼にハマっていくのであった。


~完~


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