『本日は、お日柄も良く』 レビュー
『本日は、お日柄も良く』作者は原田マハさんです。彼女は『楽園のカンバス』『ジヴェルニーの食卓』などの美術系、キュレーターの主人公の作品が有名です。しかし最近山田洋次監督で映画化された『キネマの神様』などそれ以外の作品も評価が高いです。
『本日は、お日柄も良く』は"伝説のスピーチライター”久遠久美に弟子入りした、主人公二ノ宮こと葉の成長物語りです。
こと葉はごくごく平凡な二十代の女の子。適当に会社勤めして、適当な時期に運命の男性に出会い結婚して、幸せな家庭を築くことを普通に夢みている。こと葉の父も母も兄も取り立てて他の人と違う特徴があるわけではない。ただしお祖母ちゃんは違います。現代日本俳句界を代表する二ノ宮驟雨先生。全国に弟子が数千人いる重鎮。そして、その弟子の中には民衆党幹事長今川篤郎氏も居た。その今川氏の子厚志くんはこと葉、兄の詩歌(しいか)の幼馴染み。今日はその厚志くんの結婚式、という場面から始まります。
こと葉は厚志くんの結婚式で事もあろうに、居眠りをしてセットされていたコース料理のスープに顔からダイブという大失態を犯します。会場の来賓をビックリさせ、ちょうどスピーチをしていた大手牛丼チェーンの社長をしらけさせると大失態。謝っても謝りきれない失敗に、自己嫌悪になるし、厚志くんと新妻の恵里さんに申し訳ないと式場を出て廊下で反省します。
廊下に出ると、こと葉から離れたソファーで煙草を吸いながらクスクスと笑っている“大人”な女性がいます。先ほどの式場内での失敗を全て見ていて、明らかにこと葉を笑っている様子です。自分の失敗は凄く反省していたこと葉でも、笑われるとおもうとカチンときます。
「すみません。わたし、受動喫煙させられているんですけど」と尖ってみせる。そのズレた反応も面白いらしく、女性はこと葉に興味を持ちます。そして「あなたやるわね。あの退屈なスピーチを救ったわよ。センスあるかもね」と妙な煽て方をしてきます。
この人こそ“伝説のスピーチライター”久遠久美です。誰だろう失礼な人ねと、廊下での対面ではカチンときていたこと葉ですが、久遠久美さんが厚志くん夫婦に向けたお祝いのスピーチには、震え、涙が出るほど感動します。
同じ頃、こと葉の会社での同僚の千華も一ヶ月後に結婚します。そして千華からお祝いの披露宴でのスピーチを頼まれます。目立つことが好きではなく、小学校の頃より目立つ場所から逃げ、隠れていたこと葉は困ってしまいます。そこで頭に浮かんだのが、厚志くんの披露宴で見事なスピーチをした久美さんの姿です。こと葉は久美さんにスピーチの原稿を依頼しようと考えます。
久美さんはスピーチのアドバイスはするが、スピーチ原稿は書かないと言います。数々のスピーチ原稿の依頼も、実際には久美さん自身が全部を書くことはせず、「スピーチの極意 十箇条」を最初に教え、次にスピーチをする本人(今川篤郎氏も、企業の社長さんも、こと葉も)にインタビューして人柄を知り、スピーチする本人が書いた原稿を最終的チェックしてより良いモノにして、スピーチの壇上に送り出すということをしていると言います。
こと葉も久美さんのアドバイスにより、自分で作った原稿で同僚の千華の披露宴で、会場の来賓客を感動させるスピーチを成し遂げます。
この千華の披露宴が、こと葉に将来にとって大きなターニングポイントになります。それは和田日間足(かまたり)との出会い。そして久美さんに本格的に弟子入りしてスピーチライター修行の始まりだからです。
日間足はこと葉にとって、出会いからことあるごとに気に障る、また仕事上のライバルでもあり、悔しいかなスピーチ、プレゼンの良き見本でもあり、何となく(男性としても)気になる存在でもありました。
あらすじを全部は書きません。作品を読んでください。女性が活躍する職業小説としても面白いですし、物語りの中心になる政治小説、選挙戦活劇小説としても面白いからです。
作品を読んで勉強なったことを一つ。選挙に立候補する、立候補するつもりの立候補者は好き勝手に”辻演説”をしていけないとは知りませんでした。ですが、主催者側からゲストとして“会場に”呼ばれたら、それなりに自分が日頃から考えている政治的な話しができる。選挙前には所属する党の名前や自分の名前を言うことはできないけども、呼ばれて行ったならば、話しは出来ると。
選挙が始まったら辻演説が解禁させるけども、駅前とか広場での演説に足を止めて聞いてくれる人はなかなか少ない。そうなると自然と立候補者自身の名前の連呼と、自分の所属する党の連呼を多く叫ぶようになる。また、細かい公職選挙法の決まりがあろ、いろいろな制約されている。簡単に言ってしまえば「立候補者が有権者に、直接に接触してはダメ」だから。選挙中に路上で握手はできるだろうけども、一人ひとりに演説はぶてない。
そうかだから選挙前からの、後援組織があるとないとではおおきい。また後援組織は出来だけ大きい団体が欲しいし、そして多くの後援団体も必要だし、応援は沢山欲しいとされると言うわけですね。
この物語りを原田マハさんが書いた頃は、小泉政権の終わり麻生政権、自民党から民主党へ政権交代、オバマ大統領が初当選、二期目の頃でしょうか。
2021年のいま、自民党に戻ってだいぶ経ち、安倍晋三首相の長期政権があり、また自民党の議員の勝手な振る舞い(腐敗)が目立つようになり、日本に残ったこと葉、民衆党のホープ代議士になった厚志はどういう風に感じているのか。オバマ大統領からヒラリー・クリントンではなく、ドナルド・トランプが大統領になった。アメリカに渡ってトランプとの大統領戦を二度、一勝一敗の経験をした久美さんがどういう風に見たか知りたいと思いました。
原田さん、こと葉と久美さんの続きを書いてくれないかな。
※ あと一つ
日間足が「言葉の師匠」とおもっている、リスニングボランティアの北原正子さんと久美さんの会話が印象に残ったので書きます。
「黙って聞く、という行為は、その人のことを決して否定せず受け止める、ということなの。(途中略)同じことを繰り返してしまったりするでしょ。話したくても、(まとまらなかったり、(※筆者が勝手にたして)、うとまれてしまうのよね。何も求めているわけじゃない。ただ話したいだけなのにね」
「北原さんからは、ひと言も、何もおっしゃらないんですか」
「いいえ。何もかも(全て)聞いて、最後にたったひと言だけ、言わせていただくの。悲しい話なら「大変でしたね」、明るい話なら「すてきですね」って」
「私に向かって話をしてくださるお年寄りは、誰もが私の母、私の父なんです。苦しかったり、辛かったり、楽しかったり、いろいろな思い出のひとつひとつを、全部受け止めたいと思っているのよ」
北原さんの言葉や姿勢は、参考にしたり見習ったりしたいと思いました。
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