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リスの見えるペンション

わたしが小学生のころ、伯母が長野でペンションをやっていた。
毎年学校が夏休みや冬休みになる度に、弟と二人で長期間泊まりに行っていた。

ペンションは、長野県の白馬に近いところにあって
スキー場からとても近かった。
伯母がスキーの先生もやっていたので、
冬はスキーをやらされて滑れるようになった。
夏はロープウェイに乗って山に登ったり、
近隣のいろんなレジャーに連れてってもらった。

伯母のペンションのいいところは、
伯母が料理が上手いのでご飯が美味しいところと、
オーナー(伯母の旦那)が始終食堂にいるので延々とお客さんの話し相手になってくれるところと、
食堂の窓からリスが見れるところ。

食堂には大きいガラス張りの窓が2つあって、
窓のすぐ外側にリスの餌入れとして木箱が設置してある。
そこにピーナッツや胡桃などのナッツ類を入れておくと
リスはまんまとナッツ目当てでやってくる。
そのままその場でナッツを食べ始めるので、
食事中のお客さんはかなりの至近距離でリスを見ながら食事を楽しむことが出来るのだ。

リスの見えるペンション挿絵

ガラスの窓越しに見るリスはまさに目の前で、
きっと日本中探してもここまで間近でゆっくりリスを見れる場所は
なかなか無かったのではないかと思う。
小さな両手でナッツを掴んで皮を飛ばしながら食べる姿は
とてもかわいかった。
ふわふわで、丸くて、触ってみたくなるほどかわいかった。



小学三年生くらいの頃だったと思う。
おじいちゃんと2人で伯母のペンションに行ったことがあった。

わたしはちょうどノートに漫画を描き始めた頃だったので、
おじいちゃんはわたしに
「リスの漫画を描いたらどうだ」なんて提案したばっかりに、
「じゃあおじいちゃんリスの名前付けて!」とわたしに頼まれてしまったのだ。

こうしておじいちゃんは、実際にやって来るリスに名前をつける役となった。
おじいちゃんが名付けたリスを、わたしが漫画に描くという流れだった。


早速、リスが窓越しにナッツを食べにやって来た。
「おじいちゃん、このリスの名前は?」
おじいちゃんは「これはなぁ…」と少し考えたあと、
「一郎!」と勢いよく答えた。

(え、一郎…?)と、期待していたネーミングではなかったので
正直、子供ながらに若干がっかりしたけれど
おじいちゃんが決めてくれたしいいかと思った。

しばらくするともう一匹リスがやって来た。
「このリスはなんて名前にする?」わたしはおじいちゃんに命名を頼んだ。
「そうだなぁー…」
おじいちゃんは少し考えるふりをしたあと
二郎じろうだな!」と答えた。

またリスがやってきたとき、おじいちゃんに名づけを頼んだ。
おじいちゃんは「三郎!」と答えた。

その次は「四郎」、またその次は「五郎」だった。

さすがにパターンが読めてきて、わたしは少しづつ不安になっていった。
もしかしてこのままずっと、「数 + 郎」を永遠と続けられるのではないかと。

6回目のリスがやってきて、「このリスは?」と聞くと
おじいちゃんは「えーっと、今は、1、2、3、4…五郎までいっただよなぁ?」
と、ついに公に数を数え始めた。
そして「六郎ろくろう!」と元気よく名付けた。

五郎までならどこかで聞いたことがあったけど、六郎なんて名前聞いたことなかった。
わたしは(そんな名前の人いるの…?)と少し戸惑ったけど、
おじいちゃんが言うなら仕方ないかなと思って、六郎で受け入れた。


そのあとも、「七郎」「八郎」「九郎」「十郎」…
やはり心配していたパターンはそのまま続行され、
2、3日間に渡ってたぶん「十六郎」くらいまでいったと思う。
まだ10歳くらいだったわたしはさすがに16匹もリスを描き分けられなくて
しかもどれが誰だかわからなくなってしまったので
その漫画は早めに終わらせたか途中で終わらせたかも今では覚えてないけれど、
困惑しながら大量のリスを頑張って漫画に描いた記憶がある。

それにしても、同じリスが何度も来てるかもしれないし、
もしかしたらメスかもしれないのに、
わたしもおじいちゃんもよく「十六郎」まで続けたなと思う。
誰かツッこんでくれても良かったのにと思う。

これも最近ふと思い出した思い出で、
おじいちゃんは日頃からニコニコしてて面白い人だったけど
このときも相当面白かったなぁと、懐かしく思った。

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