数ある地方中小企業を魅惑の投資対象に変える出資スキームを考えたのでファンド作ってみた
琉球オフィスサービスの藤本です。
SCOMという沖縄県内の中小企業(SMB)に特化した投資ファンドを運営しておりまして、この記事ではその具体的な投資スキームについて記述しております。
タイトルは若干アレですが事業には非常に真剣に取り組んでいますので、怒らないでいただきたいです。
なぜこれまで中小企業(SMB)への投資がされてこなかったのか
ベンチャー/スタートアップが積極的に外部からの出資を受ける理由は、資金そのものの価値の他、経営への関与や単独ではアクセスできない企業や機関とのマッチングなどにもあり、それが創業間もない企業やサイズの小さな企業には大きな価値があることを、僕も前職でよく目にしていました。
一方、出資者には出口(株の売却/現金化)が必要ですが、一般的には上場やM&AがEXITとして想定されますので、急成長前提のベンチャー/スタートアップを除く一般的な中小企業(SMB)が投資対象となることはあまりありません。
つまり下記のような構造です。
ベンチャー: 外部からの出資&積極支援→急成長→EXIT
SMB: 自己資金+融資→原則すべて自力→低成長に陥りがち
日本の企業の大部分がSMBといえますが、地方においてはさらにSMBの比率が高くなります。
30名未満のSMBが97%を占め、60%の法人が赤字決算である現状は日本の大きな伸びしろであるとも言え、これを解決しうるのがSMB向けの投資であると考えて設立したのが沖縄のSMBに特化したSCOMというファンドになります。
SMB投資における課題
一般的な投資スキームをSMBに適用するには、ざっくり下記のような課題がありました。
・出口戦略(IPO/M&Aを目指していないため出口がない)
・企業価値の算定
・株式に関するリテラシー(資本の活用が一般的でないので)
考えてみれば、これらの課題はあくまでスキーム上の問題です。
投資における本質は「投資先企業の成長」という一点に尽き、それにおいては大量の地方SMBは前人未踏に近いブルーオーシャンとも言えます。
例えば、地方SMBは純資産が数百万~数千万、年間の純利益がゼロ~数百万というサイズの企業が(赤字企業を除けば)ボリュームゾーンです。
仮に、純資産1,000万/純利益200万の会社が利益400万に成長すれば、3年後にはざっくりで純資産2,200万(+120%)、5年後には3,000万(+200%)になります。
利益は200万しか上積みしていないのですが、元が小さい分、成長率は高いものとなり、投資において最も重要なのはまさに成長率です。
投資先が非常に豊富であることも魅力です。
どうすれば課題を乗り越えて投資ができるか
前述の課題3点に関して、僕たちは下記のようなアプローチをしました。
出口戦略
3~4年後を目処に、投資先企業に株を買い戻してもらいます。
買い戻し時には提携している金融機関の協力のもと、資本を融資に切り替え、投資先企業にキャッシュアウトによるダメージが生じないようにします。
投資先企業からすれば安く売って高く買い戻すことになるので、投資期間中の僕たちの働きを事前に信頼してもらい、僕たちは実際に説得力のあるパフォーマンスをする必要があります。
企業価値の算定
知識の非対称性からくる不公平をなくすため、出資時と買い戻し時にまったく同じ計算式で機械的に企業価値を算出します。
具体的には下記のような計算式をベースにしています。
当期純資産額+(当期純利益×3~5年分)=企業価値
一般的な企業価値算定には、実質的なガイドラインはありますが主観や交渉力のパワーバランスによって変動する余地が極めて大きく、双方に十分な理解がないと納得感のある価格形成は難しいです。
地方SMBという性格上、知識量や交渉力が影響する余地のない、フェアで客観的な企業価値算定式の採用は非常に重要だと感じています。
株式に関するリテラシー
同じく、知識の非対称性からくる出資受入企業側のリスクを最小化するために、議決権を放棄した種類株での出資を行い、取締役派遣等も請われないかぎり条件にしていません。
地方SMBの場合、株式や議決権についてやそもそも出資と融資の違いなどを、最初に理解を得る必要があります。
うまく成長した場合、融資における金利に比べて非常に大きな利益が僕たちに生じることも、うまく行かなかった場合に僕たちに生じるリスクと合わせて、時間をかけて説明をしなければいけません。
株式という企業の生命に等しいもののやりとりになりますので、誤解のない状態にしなければいけませんし、投資期間中は一緒に企業を育てていくわけですから揉めてる場合ではありません。
地方SMBという環境に合わせて、過剰なくらいシンプルでわかりやすいスキームにするべきと感じています。
さいごに
議決権の放棄、企業価値の機械的算定、買い戻しを想定したEXITなど、あまり例がないので特殊に見えるスキームですが、交渉力や主観的評価が多分に介在する従来の投資スキームを微調整するのではなく、ゼロスタートで徹底的にシンプルでフェアな設計にすることを最優先しました。
そして、SMBのマーケットではそれが生命線になるとも思っています。
僕たちがこのスキームで沖縄県内SMBへの投資を始めたのが2020年に入ってから、言うまでもなくコロナ禍が市場に大きな影響を与えていますので、これが機能するかを見極めるのは2022~2023年のファンドのパフォーマンスを待つ必要があります。
もしこのスキームが機能するなら、圧倒的な数がある地方SMBがリスクマネーの関心を誘い、ひいては地方経済のゲームチェンジになりうると考えており、その未来をぜひ見てみたいと楽しみにしています。
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