殺した数
路地裏のバー。
うす暗い店舗。約束通り集まった5人は、奥のテーブルに座る。
注文したドリンクが来ると、最初に口を開いたのはドナルドだった。
「なあ、お前ら。今まで何人殺した?」
ガチガチに決めた黒スーツにネクタイ、身長190cmは優に超えるドナルドが、その巨体とは対照的に、他の席の人間に聞こえないよう、ひそやかな声で話す。
「僕は15人は殺った」
黒い眼帯をしたジョージが、淡々と答える。
「ほう、見かけによらねえじゃねえか。そしたら、姉ちゃんはどうだ?」
ドナルドは、金のロングヘアーがトレードマークのキャサリンに質問を振った。
「フッ、私は100人以上の命をいただいたわ」
キャサリンは、舐められたら困る、とでも言いたげな表情だ。
「キレイな外見に似合わず物騒だな。おいボウズ、てめえは?」
ドナルドがボウズと呼んだのは、銀色の短髪に青い目が特徴のイシカワだ。
「自分は軽く1000人以上は殺してますよ。ここまできたら、数なんてどうだっていい」
数など知ったことかとでも言わんばかりのイシカワの態度に、一同の表情は凍りついた。
ドナルドが顔をこわばらせながら続ける。
「はは、次元がちげーじゃねーか。お前がそこまでやるたあ、数年前は誰も思ってなかったぜ。さすがはホープだな」
ドナルドの称賛を受けたイシカワは微笑した。
「皆さんの支援あってのことですから。自分一人でここまでこれた訳じゃありません。ところで、バジータさんはどうなんです?」
イシカワに質問を振られたバジータは、目線を下に向けた。黒いサングラスをしていたが、誰の目にも彼は自信がなさそうに見えた。
「・・・0人です」
バジータの答えに、ドナルドが大笑いする。
「ははあっ、お前らしいじゃねえか!さすがへなちょこバジータ。だれひとりとして殺せねえってか」
ドナルドはバジータを嘲笑する。
「ドナルド、次に大きな声を出したら容赦しないわよ」
周囲の目を気にしたキャサリンが、ドナルドを黙らせる。
履いているヒールのかかとが、ドナルドの革靴に軽く刺さっている。
「悪かったよキャサリン。でもよ、人を殺してこそのこの仕事だろう?命を殺めてでも結果を出そうというやる気は、お前には無いのかい?」
ドナルドがトーンを落として問いかける。
「まあ、僕はラブコメ作家なんで」
バジータはへ、へ、へ、と困ったように笑いながら、右手で後頭部をさする。
「まあ、人が死ななくても感動する作品なんて、たくさんありますからね。戦争もので新人賞にノミネートされた自分が言うのもちょっとアレですけど」
イシカワがバジータをフォローした。
「僕も人の死をユーモラスに扱いますが、基本はコメディですし、そんなに殺さなくても読者にはウケますよ」
ジョージも続いた。
「第一、安易に人の死を感動の道具に用いるのは、愚策だと思うわ。今どき、そういう魂胆はすぐにファンに見破られるわよ」
キャサリンがたたみかけた。
「お、おう、分かってるよ。ミステリーの書きすぎで感覚がおかしくなっちまっただけだ。悪かったよ、バジータ」
ドナルドの巨体が小さくなった。
その後は近頃の活動、互いの作品に対しての意見交換、好きな作品の話などで盛り上がり、コスプレイベント帰りの作家たちの夜は更けていった。
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