詠む人くんの徒然なる日常。1

「行ってきます!」

明るい気持ちで家を出た。急ぎ足で出て行ったので、お母さんの行ってらっしゃいがフィードアウトしていく。

今日、僕のクラスに転校生が来る。転校生、どんな子だろうか。女子なのか、男子なのかもまだ、知らされていない。個人的には女子であってほしい。それも、超ド級の美少女。あ、でも、あまりに可愛すぎると他の男にとられる確率が上がるから、平々凡々な僕の容姿に釣り合わないほどに可愛いと困るな。そうそう、るんるん気分でこうやって歩いているうちに、転校生の少女とぶつかって、青春の物語がひとつ、幕を開ける。そうに違いない。

「うおっ」

妄想にふけりながら歩いていると、足元の石に足を引っかけた。まずい、このままでは転んでしまう。そう思った刹那、誰かの腕が僕の体を優しく支えた。程よく筋肉のついた、男子高校生の腕だった。

「あっ、ありがとう」

僕は感謝を告げると、突然の出来事に驚いた心を静めつつ、相手の顔を確認した。さわやかな顔つき、見るからに優しそうな男子高校生。だけど、見たことのない顔。

「もしかして君、転校生?」

転校生だろう。間違いない。それにしても男子だったか。いくらか残念な気持ちになりながら、彼の返答を待った。

「新しい 風を吹かせる 僕の名は 転校生の 人徒詠人(ひととよみひと)」

短歌調で返ってきた自己紹介に、思わずきょとんとした。そんな僕にかまわず、彼は続けた。

「大丈夫。これからとても、楽しいよ。足元たまに、気を付けていて」

彼はそういうと、学校の正門の方へと駆け出して行った。僕は謎の転校生との出会いによる衝撃で、しばらく立ち尽くしていた。

「なぜ短歌?」

やっと歩き出した僕の頭の中では、なぜ短歌、という言葉がこだまし続けていた。


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