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とある悪戯の算段
「くれぐれも、鬼にはばれぬように」
スーツ姿の男が言うと、小学生男子はこくりとうなずく。
「途中でばれないか怖いね」
言葉とは裏腹に、小学生男子はうきうきとしている。
「安心しろ。段取りは完璧だ。怪しまれることは無い」
さっそく準備に取り掛かろう、男はそう言うとポケットから携帯電話を
取り出した。
「もしもし?-例のやつは準備大丈夫そうですかね?-ああ、念のため確認でした」
よろしくお願いします、と通話を切る。
「さて、今夜が楽しみだ」
男が言う。ふたりは顔を見合わせて、不敵な笑みを浮かべた。
夕暮れ時。帰宅したふたりは、最終確認をする。
「ねえ、あれはちゃんと準備できた?」
「もちろんだ。『店』から確実に仕入れてきた。そっちこそ抜かりないな?」
「当然だよ。念入りに作りこんだ」
準備はばっちりだよ、と、小学生男子はポケットから怪しげな紙切れをちらりと見せる。
「さあ、イッツショータイム」
食卓には普段通りの食事が並ぶ。
「ふたりともご飯だよ。はやく来て」
エプロン姿の女が鍋をかんかんと叩くような声でふたりを呼ぶ。せっせと食卓に着くふたり。言うことをすぐに聞かなければ、女が鬼としての本性をあらわにすることを、ふたりはよく知っていた。
「いただきます」
「ごちそうさまでした」
食事を終えると、突然、部屋が暗くなった。
「え、停電?」
女が戸惑った声を出す。が、次の瞬間、ほんのりと温かな光が部屋を薄暗く照らした。
「わあ」
すごく奇麗ー。光源を見つけた女の口から、すっとんきょうな声が飛び出した。
「ハッピーバースデイ」
そこには火のついたろうそくを立てたケーキを持つ男の姿があった。
「まったく祝う素振りなんて無かったのに」
驚く女にたたみかけるように、小学生男子がポケットから紙切れを取り出す。
「お母さん、お誕生日おめでとう」
そう言って手紙を差し出す。女の目は、わずかにうるんでいる。
「一生懸命書いてくれたんだね。お母さん、嬉しい」
ありがとう。女はそう言うと、目を細め、柔らかな微笑みを浮かべた。
まったく、この笑顔、鬼に金棒ってやつだよな。
男は天使のような微笑みを見つめながら、内心でひとりごちた。
とあるマンションの一室。その夜、静かにバースデイソングが流れていた。
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