なあ、アンタに「聞いて欲しい」だなんて言っちゃいねえんだ。
なあ、歌ってさ。別に上手い奴だけのもんじゃねえよなあ?
いや、なに。ぶしつけに悪かった。
もちろんさ、上手いに越したことはねえんだよ。
上手いヤツの歌を聞くのは、言うまでも無く好きだ。
でもさ、俺は無性に歌いたくなる時があるんだ。
歌詞に思いっきり気持ちを乗っけて、ありったけの大声で。
要するに俺は下手くそだけど、歌ってもいいよな、ってことなんだけどさ。
***
「いらっしゃいませ」
思い立ったが吉日、俺は行きつけのカラオケ店へ向かった。
店員さんも俺の顔は見慣れているらしく、わざわざ人数を聞いてはこない。
大抵、一人で来るからだ。
しかしながら、俺を見るなり店員さんの顔が固まった。
「すみません、満室で」
脳内に雷が落ちたようだった。
油断した。いつものように当然空室があると思い、予約をしていなかったのだ。
また来ます、とだけ返し、肩を落として家に戻ることにした。
***
自家用車に乗って家に向かう。
ああ、こんなにも歌いたいのにカラオケに行けないなんて。
こんな時には車内で熱唱だ!
スマホとカーナビをBluetoothで繋いで、音楽アプリで曲を流す。
昔から聞き慣れている、大好きなアーティストの曲だ。
ひとつひとつの言葉をはっきりと歌うから、なんつーか、聞いてても歌っても気持ちがいいんだよな。
~♪ ~♪ ~♪
……多少なりとも気分は良くなってきた。
やっぱり歌うっていいよな。
でも、これだけじゃやっぱり足りなかった。
俺は腹の底からじゃなくって、心の底から声を出したいのに。
***
それで、帰宅してこうやってPCを前にキーボードを叩いている。
誰に読ませるつもりも無いような、日記みたいな文章をただ綴っている。
そうだ、別に俺の気持ちを聞いて欲しいとか、そういうのじゃねえんだ。
ただ自分の心の中を言葉にしたいだけ。
でもさ、こうやってこの文章が目に入っているってことは、アンタが読んでくれてるってことなんだよな?
顔も知らない誰かが、顔も知らない誰かの言葉を読んでいる。
へへ、とんだもの好きがいるもんだ。
ただ、ここまで読んでくれてありがとう。
気の迷いでももの好きでも、読んでくれたのは心のそこから嬉しいよ。
誰に読ませるつもりでもないから、心の中の、中心に近いところから出た言葉たちなんだ。
半分くらいは創作だけど、半分以上は俺の本音がこもっていると思うよ。
んじゃ、気の迷いついでに、なんだ。本当に気が向いたらで良いんだよ。
なあ、アンタに「聞いて欲しい」だなんて言っちゃいねえんだ。
これから歌っていいかな? ……もちろん、実際には文章を書くだけで、声すら出さないんだけど。
カラオケに行こうとしても、車の中で歌っても救われないヤツの、歌とも呼べない何かだ。
***
お前の書く小説は下手くそだって誰かが言うんだよ
お前の描く絵は下手くそだって誰かが言うんだよ
お前の歌う歌は下手くそだって誰かが言うんだよ
でもさ 俺たちは何もなくとも
何かをやっていいはずだったんだ
勉強したくなきゃあ 本当はしなくてもいいはずだ
遊びたきゃあ 遊べばいいはずだ
それなのにどうしてか俺らは苦しむんだ
どうせ上手くいきっこないって
自分より上手い誰かと比較して
来たことも無い批判におびえて
ひたすらに お前じゃだめだよ って冷たく呟いている
上なんていくらでもあるし
下だってどこまでもあるのに
比べることから始める俺たちは
まるで自分から牢屋に閉じ込められているみたいだ
なあ 何は無くとも 楽しんでいいはずなんだ
やっていいのかって 誰かに聞かなくてもさ
それなのに 止まない雨みたいに ずっと許しを求めている
自由に生きてイイんだよな? って
それでも雨は止まないから
せめて好都合と捉えることにしたよ
雨さん いくらでもかき消してくれよ この叫びを
俺は書きたい 俺は描きたい 俺は歌いたい
頼むから 降りやまないで どうかそのまま
俺は書きたい 俺は描きたい 俺は歌いたい
いくら叫んでも 迷惑にならないように
俺は書きたい 俺は描きたい 俺は歌いたい
ずっと降りやまないで ずっと降りやまないで
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