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追いつけない

久しぶりの、そして1人では初めての帰省だった。

着飾ることが大好きだった祖母は、出掛ける時イヤリングをつけなかった。口を大きく開けたくしゃっとした笑顔は、心なしか減っていた。

前は私の写真をひたすら撮ってくれた祖父は、自分の部屋から出なくなっていた。写真は撮れず、耳が遠いために話すことも少しだけしかできなかった。

小さい頃からお世話になっている洋食屋のマスターは、私の顔を覚えていなかったみたいで挨拶ができなかった。祖母にお釣りを渡す手は震えていた。

なんとなく仕方ないことだとわかりつつも祖父母は私が来て嬉しかったのだろうか、と少しだけ考えてしまった。
マスターはお店をどのくらい続けるのかな。もしかしたらあの大好きなデミグラスソースがついたポーチドエッグは最後だったのか

今バスの窓から見える、寂れて日焼けしていたキャッツ・アイは新しく塗り替えられて鮮やかになっていて、あの頃はもう埋もれてしまった。

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