麦茶と水筒
子供が使う水筒は選び方が重要だ。
年齢や学校生活を考慮し、毎日使うものだからこそ最適なものを選びたいものである。
そして水筒に入れる麦茶もまた、大切なポイントである。
麦茶と水筒。
それは切っても切れない絆で結ばれているのだ。
幼い頃、私は「忍者ハットリくん」の絵柄がプリントされた水筒を使用していた。
それは、いかにもキャラクターグッズといった感じの水筒だったので、成長するにつれ、徐々に使うことが恥ずかしくなっていった。
小学生になると、同級生はステンレス製のボリューム感のある格好良い水筒へ早々に移行していた。
私のプラスチック製のハットリくんでは格好がつかない。新しい水筒をねだったが、諸々の事情により要望は叶えられず、この水筒を使わざるを得なかった。
しかし、このままではいけない…
現状に嘆いてばかりでは何も変わらない。
私は強い危機感を覚え、現状を打破するため
立ち上がった。
そして、自分で何かするわけではなく、
母に何とかしてくれと懇願した。
すると母は、使い古しのタオルを再利用し、
水筒のカバーを作ってくれた。
フィット性抜群のタオル地カバーだ。
まるっとハットリくんは隠れた。
すごい、すごいぞタオル地カバー。
だが、人間とは次から次へと欲しがる生き物だ。カバーのおかげで確かに絵柄は隠れたが、いかにもカバーしてますという雰囲気が気になるのである。結局私は水筒を出すのが恥ずかしく、コソコソと隠しながら使うのであった。
ところで当時、何故かは分からないが、男子の中で「誰が一番冷たい麦茶を持ってくるか」を競い合う謎の大会が行われていた。
最も冷たい麦茶を持っているヤツこそが、「ベスト オブ ザ 麦茶冷たい」の称号を与えられ、崇められるという、取るに足らない競い合いである。
しかしクラスの男子は皆、その称号欲しさに、いかに冷たい麦茶を作るかにプライドをかけて臨んでいた。
ある者は大きなアイスブロックを水筒に入れ、ある者は水筒ごと冷凍庫に入れ、どれだけ冷たいかをお互い味見しながら盛り上がっていた。
それでは、私の麦茶はどうだったか。
湯気が出るほど熱かった。
フーフーしなければ飲めないほど熱かった。
何故なら母は、「冷たいお茶はカラダに悪い」
という、健康的で全くもって反論しようがない理由で冷たい麦茶を持たせてくれなかったからだ。
そういうことじゃねーんだよ母ちゃん。
私の水筒は、蓋がコップになるタイプだったため、アツアツの麦茶をチョロチョロと注ぎ、フーフーしてチビチビ飲む。
冷たい麦茶をゴクゴクと喉を鳴らしながら飲む同級生達の流れには一切ついていけない。
そんな時、同級生に「お茶飲ませて!」と言われた。まさかこんなに熱いとは誰も思っていない。
しかも、
タオル地カバーのハットリくん水筒なのだ。
「いや、俺の麦茶あんまりないんよ」
私は訳の分からない言い訳をしながら、
頑なに拒否した。
同級生の不思議そうな顔を尻目に難を逃れたが、
それからは、いかに誰にも麦茶を飲ませないかに全力を注ぐ日々であった。
あれから長い年月が過ぎた。
熱い麦茶も今となっては良き思い出だ。
私の子どもが水筒に麦茶を入れて学校に行く姿を見ると、熱かった麦茶とタオル地カバーの水筒を思い出すのである。
そう、ひとつ言い忘れていた。
同じ時、兄は「仮面ライダースーパー1」の
水筒を使用していた。
麦茶はもちろんアツアツ、タオル地カバーはフィット感抜群だったはずだ。
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