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1 唐突だけれど、ぼくらの偉大なる主人公「ネロ」が駅に到着したところから、この小説は始ま…
風の吹いていないタイミングで、小汚い人家の二階の窓が、ガタガタ震えた。不気味、窓ガラス…
雲の裏で人の目にさらされていないときでも、太陽はちゃんと動いている。ネロがもたもたしてい…
やがて険しい山道に入った。それにともない、しつこくまとわりつく雪の床は、だんだんと薄くな…
無慈悲な鉄条網に行く手を塞がれた、とネロは思った。疲労感が早とちりさせたんだね。近づ…
そろそろ食事が終わりそうだったのだが、唐突に野球帽をかぶった男が大声で演説を始めた。小柄な男だったが、通信販売の段ボールの上に立って話す声は、ネロ達のテーブルまで衰えることなく届いた。おかげで土田陽子と双子双子67は、互いの声を聞きとるために、顔を数センチの距離まで近づけなくてはならなかった。つばの飛び交う議論のためにね。 野球帽とは何者か? サルの話では、飛行の実地訓練を積んだ、ただ一人の訓練生という事だった。野球帽の話はとても面白く、ネロは他の訓練生たち同様、引き込まれて
3 ネロはいそいそと起き上がり、いつもサルが眠っているはずの布団に何気なく目を向けた。…
部屋に戻ると、毛布が足元に丸まって忘れ去られ、布団の中が晒されていた。マリは目を覚まし…
ネロとマリは施設の敷地の外に出るため、いったん部屋に戻って上着を持ち出した。マリはネロ…
街は、ネロが前に通り抜けた駅のある街とは違って、人の気配があった。人々は、あらゆる場…
太陽は目を離すとどこかへ行ってしまう。ネロとマリは太陽の監視を怠っていたため、昼食をと…
灯りなしで立ち入るには暗すぎる部屋の奥に、人の気配があった。ネロが灯りをつけようとする…
告白 「まずお礼を言わせて、ありがとう。私に告白の機会を与えてくれて」 暗闇に潜んでいる野球帽たちの拍手の音が響く。ネロは驚いた。だって、自分(とサル)の部屋が、突然ろくでもない講堂みたいになってしまったんだからね。だけどそれはなんら不思議な事じゃない。夜の暗闇というのは、想像力そのものなんだ。ネロは振り返って光の当たらない壁際を凝視した。目でとらえられるようなものは、そこには1㎤ほども認められなかった。また、直視することの恐怖―あまりに大きく刺激的な好奇心―が懐中電灯の光