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連載・君をみつけるために 第十一章:「あなたを大切な人にしたい」

過去投稿:2017/1/6

 本当に人を好きになるなんて一生ないままだと思ってた。だけど、私は本当に人を好きになった。そしたら体裁とかそんなものはどうでもよくなったの。

 いっつもお母さんが私の恋人を勝手に精査して、地方都市のお嬢様だった私にとってそれはつまらないものだった。彼氏ができれば、すぐに母親の耳に入りどんな仕事をしている両親なのか、これまでの女性遍歴全部を調べられて、いいかダメかを言われる。それは彼氏じゃなくて最近仲がいい男友達にも該当する。気付いたら、私は心から誰かを好きになるなんてことをしなくなっていた。

 彼と初めて会った時の印象なんて、ほとんどない。まず空手部なんていうもっさりした部活に入ってる段階で興味なんてないし、別段すっごく目立つわけでもない。でも、そんな彼に惹かれだしたのはいつからだろうか? ふと思い返すと、ある日が思い浮かぶ。あの時あの瞬間あの場所で私は確かに恋をした。

 体の関係は持たずとも、高校の時のようにとっかいひっかいしていた私はついに大学で痛い目に合った。部活の活動場所である卓球場(私はダンス部で卓球場の鏡でダンス部は練習している)に呼び出されて、複数の男子と複数の女子に囲まれてひどく文句を言われた。そして、あの勢いでは……私は多分、ヤられて泣き寝入りしていたと思う。でも、腕を掴まれて口をふさがれた時、彼が卓球場に入ってきた。彼らはそれを見てすぐに私を離した。彼は入ってくるなり、言った。

「あのー、ちょっとうるさいんですけど何事ですか?」

 あとあと、彼のよくいる空手道場に行ったことでわかったことだが、あの時の口論の音量だったら話の内容がわかるくらい道場と卓球場の壁は薄かった。普通の人々だったら、事なかれ思想で無視をするだろうことを彼は臆せず助けてくれた。それにそれで恩を売ろうともせず、名乗りもせず去って行った彼に心が大きく揺れた。

 ときどき汗だくになってウォータークーラーで喉を潤す彼を見てた。小夜と談笑しながら帰っていく彼を聞いていた。あなたのすべてを感じたいと思えた。自分をよく見せるためにしていたメイクや言動が全部、彼のためにすり替わった。ああ、これが恋をするってことなんだ。

 彼に嫌われることさえも怖くなくなった。ただ好かれたい、その一心はどんなことも私にできるようにさせた。ねぇ、私を見て!

「澪君!」

「あ、近衛さん」

 私は私を待つ彼に後ろから声をかけた。彼はいつも通り私を「さん」付けで呼ぶ。彼は女性なら全員に基本は「さん」付けで呼ぶ。そこに特別性がないからこそ、ずっと私に私と付き合ってくれるんじゃないかっていう希望を抱かせる。でも、今日の私は違う。ここまで積み重ねてきたものすべてを、私はついに成就させるんだ。

「今日は何の用事?」

「私、一年の時成績が不良だったじゃない? だから、予習勉強したかったんだけど、一緒に勉強できる人があんまりいないから一緒に勉強してくれないかなって思って」

「ああ、そういうことか。じゃあ、どこ行こうか、カフェとか?」

「お金がかかるし、今日も私の家じゃダメ?」

「……前みたいにお母さん来たりしない?」

「大丈夫! 今頃、春の休暇を活かしておばあちゃんと温泉旅行だから」

 そう。もうあんな邪魔が来ないようにしたいから、私は準備に準備を重ねた。母親登場の危険性を回避して、今日は料理だってあらかじめ作ってある。彼が『私が尽くした恩を返す』みたいなカタチでもいい、彼と付き合いたい。一番のいい方法じゃなくていい、結果的に彼と付き合って、その時に好きになってもらえればいいのだから。私の部屋に着いて机の前に座ると、彼はいつもカバンに入れている無地のノートを取り出す。その行動さえも愛おしく思える私は、まさに盲目で馬鹿な恋煩いの少女だと思う。

「どこを勉強するの?」

 予想していた彼からの質問、私は用意した回答があったのに言葉が詰まった。

「えっと、神経の範囲?」

「ああ、なるほどね。教科書ある?」

「うん……あるよ」

 彼は真面目に勉強に取り組もうとしている。その同じ空間の中に、彼を狙う私がいる。私ってずるいかな……? でも、あなたを狙う自分を恥じている暇があれば、私はあなたのそばに居たいって思ってしまうの。この気持ちに気付いて!

 勉強は進み、何時間かが経った。彼のノートは無地から文字の海になっていく。対して私の心は彼への思いで溺れそうになる。そんな中、彼がボーっとする私に遭難用の浮き輪を投げてくれた。

「疲れちゃった?」

「え? あ、うん」

「そうだよね、もう六時半だもんね。昼からずっとやってるから、もう疲れてるし、俺もお腹空いてきちゃった」

「あ、そうだよね」

「夕飯どーする?」

「えっとさ、実は夕飯作ってあるんだ……一緒に食べない? 1人で食べるのもアレだし」

 ここが正直、緊張の一瞬だった。もしも帰るって言われたら、それでこの作戦は意味がなくなってしまう。お願い……断らないで。

「お、マジでいいね! 今日は母親が旅行で飯がないし、本当にありがたい!」

「ホント!? すごい!」

「え? なにが?」

「なんでもない」

 あんまりの偶然に私は歓喜した。思わず、「すごい」なんて言葉がこぼれてしまった。思わず出た言葉が恥ずかしかった。私がキッチンに行くと、彼もついて来ようとした。

「え? なに?」

「いや、手伝えることないかなって」

「いいよ、大丈夫全部やるから!」

「そうなの? じゃあ、お言葉に甘えて」

「あ、ちょっと待って。やっぱり手伝ってもらおうかな?」

「了解」

 私が彼を引き留めたのは彼と一緒に料理をするのが楽しそうだったからだ。一緒に料理をするとかまるで、カップルみたいでやってみたいと思えた。実際にやってそれは本当にカップルのようだった。ある程度の下準備をしたものに調理を施していく。

「じゃあ、これを炒めるの頼んでもいい?」

「いいよー」

「玉ねぎがきつね色になってきたところで。牛乳とルーを投入するから言ってね」

「了解。近衛さんは何をするの?」

「私はラザニア用に具材を詰めるから」

「了解。美味しそうだね」

「うん!」

 彼と一緒にシチューとラザニアを作る。そんなことをするなんて思わなかった。彼は私の指示に従って、すこしぎこちないが動いてくれる。そんな彼の新たな一面がさらに私を魅了した。優しいだけじゃない彼にドンドンと思いを募らせる自分が怖くなった。でも、進むことしかできなかった。

 料理が完成した。楽しい時間は過ぎてしまったと思えた。でも、ここからがさらに楽しかった。二人でテーブルに腰かけて、二人で作った料理を食べた。彼が焦がしてしまった野菜を食べて彼を弄ってみたり、私の料理を褒めさせたり、異常なくらいそこには充実した時間があった。彼と生活をともにしているこの感じ。それからも楽しかった。私が洗い物をしながら、カウンターから顔を出す彼と雑談をして、二人で皿を拭いて。それから二人で、テレビの前の座布団に腰かけながら、馬鹿みたいな話をテレビを見ながら話す。くだらないバラエティ番組も二人で見れば、最高のコメディーショーに感じられた。このときが延々に続けばいいのに、って思っていたけど終わりは来る。彼の終電がくる少し前、私はこの勢いに乗って、意を決した。

 私はテレビのリモコンでテレビの電源を突然落とした。私は彼によりかかった。彼は驚いた様子だった。彼の鼓動が彼の肩に触れた私の頬に振動を伝える。

「ねぇ、澪君」

「どうしたの、近衛さん?」

「ねぇ、お願い。私を「綾子」って呼んで」

「あっと、綾子……さん」

「綾子だけでお願い」

「……綾子」

「もう一回!」

「えっと、綾子!」

 嬉しくなってしまった。何度も聞きたいくらいだったが、もっと前に進むんだ。

「ねぇ?」

「うん?」

 私は彼の肩から体から離し、彼の前に座りなおして、彼の頬を撫でた。

「え、どうしたんの、綾子?」

「また、綾子って呼んでくれた」

 私はそのまま彼にキスをした。彼の口に舌を入れてしまった。でも、彼は戸惑っていたのか拒まなかった。

「っと、今のは……」

「……フフ、ごめんね」

「いやいいけどさ……」

 彼の頬を触りながら、彼の目を見て私は言った。

「あのさ、キスをするとか、そういう順番が前後してしまった気がするけど……私は告白に必要なことはしたと思うの」

「え、それは……」

「だから、言うね。もっと長い時間をあなたと共有したい。だから彼氏という名で私にとって大切な人になってくれない?」

 彼は私の目から視線を外して、下を見て悩んだ。数秒考えた後に彼は私の目を再度見た。そして、彼の頬を撫でる私の手を上から多い被せるように自分の頬に手を当てた。そして、彼は言った。

「僕は……」

写真:足がある魚(正しくは足じゃないけど)であるホウボウっぽい魚

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