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連載・君をみつけるために 第六章:飲み会終わりの奇跡

過去投稿:2017/1/6

「楠本、次いくぞ!」

 先輩は僕の肩に身を任せてきた。

「はいはい」

 5年の女性の先輩に言われた通り、三次会に向かおうとする先輩を無視して、東上線の下り電車に乗せた。楽しそうに埼玉方面に去って行く先輩に手を振った。僕はスマートフォンを確認した、すると仲さんからLINEが来ていた。無事に家に着いたということだ。仲さんは一次会で帰ったから、二次会のことは知らない。安心したところで、逆のホームを見た。すると、見たような人がいた。それがすぐに誰だか僕にはわかった。急いでその人のところに行きたかった。でも、必死な姿は見せたくない。だから彼女のもとへ早歩きをしてむかった。

「おーい」

「あっ、楠本君」

「こんな時間にどうしたの、遠藤さん?」

 遠藤さんがそこにいたのだ。運命じみたものを感じた。でも、いつも楽しげの彼女とは違って、とっても儚げで……やっぱりそこに美しさを感じた。

「ちょっと用があったんだけど、なくなっちゃって」

「そっか、そういうこともあるよね」

 忘年会シーズンである今は冬休みで学校がない。それになのに学校の付近に来ている彼女はおそらく学校の近くに住んでいる彼氏の家に来ていたんだろう。だから、それ以上は言及しなかった。無言で一緒に池袋方面の電車に乗った。俺は端から二番目の席に座った。彼女はその隣である端の席座った。僕と彼女は何かを察したように前を向いていたままだった。

 東池袋に着いたとき、彼女は首を僕の方にもたげた。彼女は前ふりをつけて言った。

「こんなことを言うのはズルいのかもしれないケド……」

「うん?」

「私、家に帰りたくないんだ」

 彼女の甘えた言葉に俺はなにも言えなかった。池袋に着いた後に、僕は彼女の指を二本だけ握って、一緒に歩いた。彼女も嫌がることなく、僕についてきた。でも、僕には彼女をホテルにつれていくような勇気はないし、このままの勢いで何かを彼女にしてしまったら後悔してしてしまいそうだった。だから、中途半端にネットカフェを選んでしまったのだろう。

「初めて来る。こんなところ」

「いやだった?」

「ううん、私、漫画もネットも好きだよ」

 二人でカップルシートに入った。二人にはちょうどいい空間。彼女は早速出ていくと飲み物と漫画を持ってきた。俺もそのあと、漫画と飲み物を持ってきた。ふかふかとも硬いとも言えない低反発のマットレスがひかれた四畳くらいの空間、その空間に半人分くらいの間を開けて漫画を二人で読んでいた。

 僕がある漫画を読み終えて、漫画を置いた瞬間彼女も置いた。偶然だった。その時、目が合った。彼女は半人分の隙間を埋めて僕に寄り掛かった。より掛かれた時に彼女の髪の匂いが鼻をくすぐった。

「ごめん、本当にごめんなさい。でも、寄り添わせて」

「別にいいんだ」

「うん」

「私は便利な女だよね、彼は私と付き合いたいんじゃない。美人で学歴がよくて、スタイルがいいそんな彼女がいることを自慢したいだけ。またはそんな女とセックスしてることを自慢したいだけ。わかってる、わかってるけど、もう辞め時がわからない。だから、今日みたいに泊まる気で行ったのに、友達を優先されて粗雑に扱われても、そばに居続けなくてはならない。誰かが連れ出してくれるのを待ってるのかもしれないけど、でも悲しい。ああ、もっと勇気が欲しいな」

 彼女はそう悲しく囁いた。そのまま二人でボーっとした。パソコンのスクリーンセーバーが虚しく動いている。そのまま彼女は寝てしまった。僕は彼女を横にすると、僕も横に寝た。すると、少しすると背中側にいた彼女が僕の背中に寝たまま抱きついてきた。

「起きてるの?」

「うん、あなたの背中って広いね」

「そうかな?」

「あなたって本当にいい人だね」

「なんでまた」

 心臓の鼓動が早くなって、それがバレるのが恥ずかしかった。でも、それ以上の幸福を感じずにはいられなかった。

「私ね、手を繋がれたとき、どうでもいいって思った。この虚無感が消えるなら、体だって差し出すって。でも、あなたは私を、こんなにヤれそうな女をホテルには連れて行かなかった」

「まあ、ここも人によってはホテルとニアリーイコールだけどね」

「でも、あなたは誘ってこないし、実際にはしてない。きっと、私が後悔しないようにでしょ?」

「それもあるかな」

「あなたが、あの時大山駅にいてくれてよかった。そうじゃないと、私はまた自分で自分をけがして後悔するところだった。本当にありがとう」

「そっか。そう言ってもらえるなら、僕も自分の行動が正しかったって思えるよ」

「ズルいのは分かってるつもり、でも今晩は優しいあなたのそばで寝かせてください」

「うん、おやすみ」

 彼女の顔は見えなかったが、声から彼女が安心していることはわかった。そして、ぐっすりと眠りに落ちた。僕も彼女のぬくもりの中、ぐっすりと眠りについた。

 翌朝、先に目が覚めた。コーヒーをとってきてネットサーフィンをしていると、彼女は起き上がった。

「おはよう」

「おはよう、よく寝れた?」

「うん」

「僕はいいと思うよ、今の誰かに甘えたい君でも。それが君の本性ならそんな君が美しいよ」

「楠本君って本当にいい人だね」

 そんな風な話をしていると彼女のスマホがバイブした。一瞬見えたが、彼女の彼氏だった。文面は見えなかったけど。彼女は下唇を噛み締めながら、少し散らかった自分の荷物を片付け始めた。

「私、行かなきゃ……」

「うん、気を付けてね。漫画を戻しておくから行きな!」

「あ、ありがと。あと、ここのお金だけど」

「あ、いいのいいの。それはまたこんな機会が訪れるようなことがあれば、その時に違う形で返してよ」

「うん、あとさ!」

「なに?」

「ローマ字で「ayumi」でハイフン、そのあとに「0606」。それが私のLINEのID。また、どこかでね」

「うん、じゃあ!」

「はい!」

 彼女がシートを出ようとした。きっとこのときに引き留めるべきだったかもしれない。でも心には違う人がいたような気がした。

「あっ、祈ってる!」

 ドアに手をかけた彼女は振り返って言った。

「何を?」

「君が勇気を出せるのを」

「私も祈ってる。私が彼と別れても自分の価値を満たせるっていう自信を持つ奇跡をね、じゃあ……」

「うん」

 彼女は去って行った。こんなにも彼女が近かったのに、何もしなかった。でも、何かをしてもこの感じだと、彼女を繋ぎ止められるかはわからなかった。ただヤって終わるだけなんて僕にはありえないし、それをしなかったのも良かったとは思うけど、でも後悔は残ると思う。

写真:オーストラリア大陸に住んでる有袋類、全般的に好き。

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