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ツケを抱えすぎているチームはどこ?

メジャーリーグでのチームと選手との契約には様々な条件や条項が盛り込まれている場合があります。
例えば、ノートレード条項。
この条項を契約に盛り込んでいる選手をトレードする場合、選手本人の承諾がなければチームはその選手を他のチームにトレードすることはできません。

今回は、そんなメジャーリーグの契約の中でも『サラリーの分割後払い』についていろいろと考えてみます。
まず、『サラリーの分割後払い』とは実際どういったモノかZack Greinkeとアリゾナ・ダイヤモンドバックスの契約を例に説明します。
Greinkeは2015年のオフに6年総額2億650万ドルでダイヤモンドバックスと契約しました。
Greinkeの各年のサラリーは以下のようになっています。

Zack Greinke 各年のサラリー額
2016年 3,400万ドル
2017年 3,400万ドル
2018年 3,400万ドル
2019年 3,450万ドル
2020年 3,500万ドル
2021年 3,500万ドル

ただし、実際にダイヤモンドバックスがGreinkeに対して年ごとに支払う額は異なります。
実際にダイヤモンドバックスが年ごとに支払う額は以下のようになっています。

Zack Greinke の各年の実際の支払額
2016年 2,400万ドル
2017年 2,400万ドル
2018年 2,400万ドル
2019年 2,400万ドル
2020年 2,400万ドル
2021年 2,400万ドル
2022年 1,250万ドル
2023年 1,250万ドル
2024年 1,250万ドル
2025年 1,250万ドル
2026年 1,250万ドル

つまり、Greinkeは2016-21年の6年分のサラリーを2016-26年の11年間に分割して受け取ることになります。
このような『サラリーの分割後払い』をする場合の選手側にとってのメリットは、契約期間が終了し選手を引退したとしても一定期間安定したサラリーを受け取ることができるということです。また、チームにとってもサラリーを分割して空いた予算で他の選手と契約してチームの強化を図れるというメリットがあります。ただし、チーム側のデメリットとして、あまりにも『サラリーの分割後払い』を乱発すると将来の予算を圧迫して、将来の身動きが取りにくくなってしまうというリスクがあります。つまり、チームとしては未来と引き換えに現在に勝負をかけているわけです。

さて、前置きが長くなりましたが、ようやくこれからが本題です。
タイトルにもある通り『サラリーの分割後払い』をしすぎてツケを抱え込んでる、つまり将来の予算を圧迫するリスクを抱え込んでるチームはどこなのか。調査してみたいと思います。今回、各チームの『サラリーの分割後払い』を調査するにあたってSportac.comのデータを参考にしています。があります。ただし、チーム側のデメリットとして、あまりにも『サラリーの分割後払い』を乱発すると将来の予算を圧迫して、将来の身動きが取りにくくなってしまうというリスクがあります。つまり、チームとしては未来と引き換えに現在に勝負をかけているわけです。

また、今回の趣旨として将来にどれだけツケを回しているかを調査するため、契約期間が終了後の後払い分の金額がどれだけあるかを算出しています。

① ワシントン・ナショナルズ
後払い額合計 2億400万ドル 支払期間 -2030年
ナショナルズは2009年、2010年にドラフト全米1位でStephen Strasburg, Bryce Harperを指名して以来、ワールドチャンピオンを目指すために多数の有力選手をFAで獲得したり、生え抜きのスター選手との高額での契約延長をしてきました。
FAで獲得した選手としてはMax ScherzerやJayson Werth, Daniel Murphy、契約延長した選手としてはStephen Strasburg, Ryan Zimmermanなどが挙げられます。
ナショナルズはこれらのスター選手を多く抱えるための手段として『サラリーの分割後払い』を多数の選手と結ぶことで毎年のサラリーを調整してきました。
例えば、Scherzerは2014年オフに7年総額2億1,000万ドルの超大型契約を結びましたが、契約期間の2015年から2021年までの間に受け取るサラリーは契約額の半分50%分の1億500万ドルしかありません。残りの1億500万ドルは契約期間終了後の2022年から2028年まで7年間毎年1,500万ドルを後払いで支払うことになっています。
また、Strasburgも契約の40%分に当たる7,000万ドル、クローザーとして以前在籍したRafael Sorianoも契約の半分50%分に当たる1,400万ドルと契約額のかなりの割合を後払いにする契約にしています。(ちなみに上記の3人の代理人はすべてScott Boras氏)
ナショナルズはこのように『サラリーの分割後払い』でサラリーを調整することで強いチームを維持してきましたが、その反面これから2億400万ドルという膨大な後払い額を精算していかなければなりません。
2024年に関しては、確定している後払い額だけで2,700万ドルとサイ・ヤング賞レベルの投手が1人雇えるほどの額をすでに契約が終わっている選手たちに支払うことになります。
Juan Sotoという新世代のスター候補の登場とHarperのFAでまたチーム編成が大きく変わってきそうなこれからのナショナルズですが、ScherzerとStrasburgの2人が在籍する限り今後もチームとしては勝負の姿勢は変わらないと思います。今後もナショナルズは戦力強化のために契約に『サラリーの分割後払い』を入れる可能性は大いに考えられます。
ナショナルズの後払い額がどこまで膨らむかちょっと怖いですが興味が湧きますね。(ファンの方には気が気じゃないでしょうが)

②ボルティモア・オリオールズ
後払い額合計 6,875万ドル 支払期間 -2037年
2013年から90年代後半以来久しぶりに優勝争いできるチームになっていたオリオールズ。
オリオールズもまたナショナルズと同様に優勝争いするための戦力を維持するために複数の選手との契約を『サラリーの分割後払い』にすることでサラリーを調整してきました。
特に2013年、2015年のホームラン王で15年のオフにFAで移籍する可能性のあったChris Davisと結んだ7年総額1億6100万ドルの契約ではなんと契約終了後の2023年から2037年まで15年間、Davisが51歳になるまで『サラリーの分割後払い』をする契約になっています。支払い額自体は4,200万ドルと前述のScherzerやStrasburgほどの金額ではありませんが、支払い期間が長いためその分長期間チームのサラリーを圧迫する厄介な存在になります。
このような後払いの期間が10年以上に及ぶ契約を結んだ選手は割と多く、代表的な存在としてはレッズと2000年に9年総額1億1,250万ドルの契約を結んだKen Griffey Jr.(支払いは2024年まで)が有名な他、Manny RamirezやTodd Helton、現役ではMatt HollidayやRyan Braunが長期間の『サラリーの分割後払い』を結んでいます。

③ニューヨーク・メッツ
後払い額合計 2,278万ドル 支払期間 -2035年
メッツの場合、サラリーの後払いと言っても事情が特殊です。
メッツの後払いはBobby Bonillaへの2011年から2035年までの25年間毎年約120万ドル、合計約3,000万ドルの支払いがその支払いの大半になっています。
Bobby Bonillaはパイレーツで80年後半から90年前半にBarry Bondsと共にキラーB'sの愛称で活躍したスラッガーで、1997年のフロリダ・マーリンズ初のワールド・チャンピオンになった際のチームリーダーで4番も担っていた名選手として知られています。
そんなBonillaですが1999年にポストシーズンの試合中にロッカールームでRickey Hendersonとトランプゲームに興じていたことが発覚、それを問題視したメッツは残り1年590万ドルの契約が残っていたBonillaを解雇します。
メッツは当初590万ドル自体の支払いを拒否していましたが、結局年利8%の利子付きで2011年から2035年までの25年間の後払いすることで合意しました。この8%の利子が曲者で実際は590万ドルの支払いだったものが、11年にBonillaへの支払いが始まる際には総額が約3,000万ドルと元の支払い額の5倍にまで膨らんでしまいました。調査した限り、メジャーリーグの『サラリーの分割後払い』の契約の中でも利子付きの契約はこのBonillaの契約のみになります。
今では、メジャーリーグ最悪の契約の1つとして毎年の支払い日である7月1日にネタにされています。

最後に2019年以降の『サラリーの分割後払い』の後払い額が多いチームTOP 5をご紹介して終わります。

『サラリーの分割後払い』の後払い額 TOP 5
1. ワシントン・ナショナルズ 2億400万ドル(2019年-2030年)
 主な支払い先:Scherzer, Strasburg, Soriano, Ryan Zimmerman
2. ボルティモア・オリオールズ 6,875万ドル(2020年-2037年)
 主な支払い先:Davis, Alex Cobb, Mark Trumbo
3. アリゾナ・ダイアモンドバックス 6,250万ドル(2022年-2026年)
 支払い先:Zack Greinkeのみ
4. ボストン・レッドソックス 3,420万ドル(2019年-2028年)
 支払い先:Manny Ramirez, Dustin Pedroia
5. シンシナティ・レッズ 2,565万ドル(2019年-2024年)
 支払い先:Ken Griffey Jr., Bronson Arroyo

それでは、みなさんも分割払いをする際には慎重に検討しましょうね。

photo by Keith Allison

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