霜月ミツカ/1103号室。

掌編・短編置き場。こちらに載っていない作品については→ http://room1103.jimdo.com/ 告知Twitter→ https://twitter.com/room1103

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マガジン

  • 人欲

    人欲という小説の記事をまとめたマガジンです。完結済。 営業職の女性が自分自身の性や在り方に向き合う話です。

最近の記事

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【小説】人欲(1/10)

 探しているものがある。いつから探し始めたのかはわからない。あのときかも知れないし、それよりずっと前かもしれない。それはあまりにも漠然としていて、頭に描くことはできない。もとより、文字にすることも。  わたしは快楽の奴隷になり、余計な想像から切り離され、夢のようにすべてが曖昧になる。彷徨い続けて伸ばした手の先にあった感触が、現実に引き戻してくれた。  いつも、他人の体の上を深く泳ぐ。きょうの相手は「ルカ 二十三歳」。存在感のほとんどない毛穴、きめ細かい肌の奥底。身体のひと

    • 【短編小説】いとしいけもの

      〇●〇● 虐待サバイバーが主人公です。 ひとによっては読んでいてつらくなることばがある可能性がありますので ご注意ください。 〇●〇●  目の前に大きな木製の扉がある。またこの夢だ。  子どもの姿の俺がそれを開けると、また違う扉が現れる。開けても開けても別の扉が目の前に現れてきて、外の世界には行くことができない。  鉄製の冷たい扉が出てきたとき、ドアノブには手をかけず、その前に膝を抱えて座る。向こう側には鬼がいることをなぜか知っている。 もうどこにも行けないからただ座

      • 霜月ミツカー私の作品紹介

        こんばんは、しもみつです。小説を書いているひとです。 noteには小説以外の文章を載せていないのですが、ちょうど、自分の小説の解説ページみたいなのを書こうと思っていたところ、 TLに上がってきたフォロー外のおすすめ記事で #私の作品紹介 があるというのを知り、 わたしもやってみたい! と思ったので公開・発表している自分の作品の一部を紹介いたします。 新しいもの一番新しい中編『人欲』(完結)  ぜんぶで100枚ちょっとの作品です。 新しいと言っても一稿は去年の三月だから

        • 【小説】人欲(10/10)

          ■最初のエピソードはこちら  総務の前沢から「会社でLGBTの講演をやる」という告知のチャットが送られてきた。ウェブ参加可だったが、なんとなく家に居たくなかったので、出席することにした。  リアルでの出席者は十人だった。わたしは一席飛ばしで本高の隣に座った。いちばん前の席に総務の三人が居る。  身長が一八〇センチくらいありそうな女性が話者だった。話は、彼女の生い立ちからだった。男性として生まれたらしい。セクシャルマイノリティのひとが言われて嫌なこと、接するうえでの注意点

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        【小説】人欲(1/10)

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        • 人欲
          10本

        記事

          【小説】人欲(9/10)

          ■最初のエピソードはこちら  アイに会いたいか会いたくないかと訊かれれば会いたいが、接触してまた傷つけてしまうような気がして、なかなかメッセージを送れずにいた。もう終わるかもしれない。付き合いはじめてまだ一ヶ月も経っていない。情けない。  確かにアイは、わたしが景雪に対して抱く負の感情をすべて理解してくれた。同じ分の重さを彼女から受け取っていない。それで恋愛関係が成り立つはずがない。頭で考えればわかる。  スマホでレズビアン風俗のサイトを眺めた。きょうは「ちょこ 二十三

          【小説】人欲(9/10)

          【小説】人欲(8/10)

          ■最初のエピソードはこちら  アイはわたしを気遣って毎日会いに来てくれるし、夕飯をつくってくれる。アイのつくる料理は見栄えが悪いが、味は悪くない。食事というよりエサ。それでもよかった。ひとりのときは食事に気を遣わないから「食事をする」というモードに切り替えて食事をすることが大事なんだと思う。  先日改修した「イダテンフード」プログラムにミスがあり、再度リリースすることになり、きょうは謝罪行脚の一日だった。行脚と言っても直接謝罪に行ったのは近郊の二件だけで、ほとんどは電話と

          【小説】人欲(7/10)

          ■最初のエピソードはこちら  アイと付き合いはじめてからはほとんど出社するようになった。わたしの顔を見るたび前沢に「きょうも出社なんですね」とストレスをぶつけられるが、幸福感がすべて無効化してくれる。  家に帰り、誰かが待っていてくれるなんてこと、いままでなかった。悪くないなと心底思った。  アイがいるとき、ぴったりとくっついて過ごした。 「今度のほのちゃんのお休み、どこか行きたいなぁ」 「いいよ。どこ行く? 映画とかいまあんまりおもしろいのやってないよね」  わ

          【小説】人欲(6/10)

          ■最初のエピソードはこちら  風俗嬢に恋をするなんてばかばかしいと思っていたが自分がその沼に落ちることになるとは思わなかった。仕事中、食事をしているとき、眠る前、四六時中、アイのことばかり考えていた。  アイは新人で、人気のあるキャストではなかったから予約をすれば確実に指名することができた。  彼女の肌は瑞々しかった。どんな女の子の肌でもぬくもりを感じると快楽一直線だが、アイの場合は泣きたくなるような、ずっとここにいたくなるようなそんな気持ちになる。彼女の胸はクッション

          【小説】人欲(5/10)

          ■最初のエピソードはこちら  週末は実家に帰り、特に何もせず寝て過ごした。それでもたまには帰って来いという両親は奇特だと思う。わたしは大学生のときに自分がレズビアンなんだと思うと親に言った。ウチの両親は「理解のある親」になろうと努めてくれているようだが、結局七歳下の大学生の弟の悠人に期待を全振りしただけだった。正真正銘のレズビアンだとわかったが、わたしの性的指向について両親にもうこれ以上話すのはやめた。  夕飯を食べながら「お姉ちゃんはもう生きているだけでいい」という謎の

          【小説】人欲(5/10)

          【小説】人欲(4/10)

          ■最初のエピソードはこちら  何があろうと生きていれば毎日、日は昇る。わたしの情緒に関係なく、平日は仕事をしないといけない。この会社に好んで勤めているのはわたしなのだから。  きょうは、新規の顧客への訪問がなく、導入顧客へのフォローが主なので少し気が楽だ。でも、なにか嫌なことを言われたらきょうは耐えられそうになかった。  訪問は卒なく終わり、ひたすら「コスモス」のシステムに感謝されて終わった。 「きょう元気ないですね」  同行した本高が天気の話をするように言ってきた

          【小説】人欲(3/10)

          ■最初のエピソードはこちら  毎朝、タブレットで新聞のチェックをする。前は紙がかさばって捨てるのが大変だったが、全部電子で済んでよい。経済面よりも悩み相談の記事を楽しみに読んでしまう。これをハガキで書くとき、どんな気持ちなのだろう。  身支度をしてリビングに設置しているデスクに向かい、ノートパソコンを広げ、HDMIケーブルに接続し、モニターに出力する。 「ウェビナーに参加されていない方は今週中に動画を視聴し、テストを受講してください」 総務部前沢から「全体」というグル

          【小説】人欲(3/10)

          【小説】人欲(2/10)

          ■最初のエピソードはこちら    長いこと提案を続けた取引先から、「御社のシステムの導入をしたい」と連絡をもらった。IT企業に勤めるわたしが思うのも妙な話だが、画面越しではなく、やはり足を運び、面と向かってことばを交わしたほうが熱意が伝わるのだと実感してしまう。  わたしの勤める会社にはいま推しているふたつの新サービスがある。ひとつは「コスモス」と言って、いわゆる通信販売のシステムだ。単なるカートショッピングのアプリではなく、「コスモス」を通じ、購入した顧客の情報を解析し

          【小説】人欲(2/10)

          [短編小説]遠くできみを呼ぶから、ずっと

           半袖では肌寒くなって、長袖を着る。カーディガンを羽織るかどうか迷い始めた頃、小雨が続く。台風が秋を連れ去って、吐いた息が白くなった頃、冬のにおいを感じる。いまだに、十五歳のときに遺書を書いた季節がきたと思う。わたしの首を絞め続けた希死念慮は、もうとっくのとうに消えて行ったのに木々に電飾を括りつけ、街がぎらつくと、あの切実だった日々のわたしが、わたしを見つめる。書いた内容はもう覚えていないのに。  一時の気の迷いですよね、思春期の頃ってよくありますよね、わたしもそうでしたよ

          [短編小説]遠くできみを呼ぶから、ずっと

          [短編小説]水曜日のあの娘

            この街には小高い丘がないから、街全体を眺め、感傷に浸ることができない。高層ビルもないから、ヘリコプターにでも乗らないと俯瞰なんてできないだろう。  家と田んぼと畑をパズルで組み合わせたみたいに、似たような景色の繰り返しで、全国チェーンと言われている飲食店は存在しない。絵で描くとしたら茶色と緑の絵具さえあれば完結してしまう。  家と家の間隔が狭いから半径一キロくらいの家ならば、家族構成とか、親の職業とか当たり前のように知っている。それでも東京までは乗り換えなしで一時間く

          [短編小説]水曜日のあの娘

          [掌編]ハズレ

          〇●〇● この作品は『文藝誌オートカクテル-不条理-』に掲載の『ユーフォリア』のプロトタイプです。 『ユーフォリア』を読む前でも後でもお楽しみいただけるかと思います。 〇●〇● 『ハズレ』  感情が無くなればいい。  誰かに言えばこれを取り除いてもらえるのだろうか。そう思っても彼を見てこの胸らしきところにある痛みがなくなるのは少しだけ惜しい気がする。こういう痛みみたいなものを感じると、わたしも彼にまだ近い存在ように感じる。だからもう少しこのままでいてもいいかな。  喜怒

          [短編小説]きょうのぼくらを永遠にしたい

           玄関のドアの開閉音が、脳髄を直接揺らした。時計を見ると十七時だった。ああ、もう帰ってきてしまったのか、早いななんて思った。きょうはもう外出することなく、ぼくが夕飯をつくるまで、リビングでテレビを観たり、スマートフォンを見たりして時間を潰すのだろう。 「マリッジブルー」ということばをはじめてきいたとき、自分とは無縁な話だなと思うと同時に、成就した想いがあるのに、それが覆るような大波が襲ってくるなんて意味不明だと思っていた。——三日前までは。  日に日に相手を間違えたかもし

          [短編小説]きょうのぼくらを永遠にしたい