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「建築の見方」を身につけて、前川國男を見に行こう!

こんにちは、ロンロ・ボナペティです。

みなさんは建築を見るとき、どんな見方をしていますか?
これまでnoteを通じて、僕が見に行って「いいな!」と思った建築を紹介してきましたが、実は僕も建築の見方を誰かに教わった経験はありません。

大学の授業でも、歴史的に重要な建築作品を学ぶ授業はありましたが、ではそれらの建築が良いのかどうか、というのは教わりませんでした。
授業で習った作品を「あんなものは駄作だ」と言う建築家がいて驚いた経験も多々あります。

では僕がどのように建築を見ているかというと、なんとなく面白いな、好きだなと感じた建築に出会ったときに、その建築のなにがそう感じさせているんだろう? と考えることで、自分なりの建築の見方を身につけてきた、という感じです。

建築雑誌に作品が載るような建築家の方々が、見に行った建築について語っていることがありますが、それらを読んでも皆が皆同じ見方をしているわけではなさそうです。
だからこそ同じ作品であっても、見る人によって評価も変わってきますし、「この作品はここが面白いよね」というのも、人それぞれだったりします。
どの建築家も自分なりの建築の見方を確立しているがゆえに、作品を見る視点やそこから自分の活動にどう活かすかといったところにオリジナリティーが生まれるのでしょう。

アート作品の見方と近いものがあるかもしれませんね。
建築の見方のズレが議論を生んで、新しい発見につながることも多々あります。
そこが建築の面白いところでもあるのですが、一から自分の見方を鍛えるのは大変ですよね。

建築が好きで、よく見に行くという人でも、見方が確立していないと、有名な建築を見に行ってみたけどよくわからなかった、という経験もあると思います。
どうせなら最低限、建築の良さはわかった上で、自分なりの見方ができるようになりたいですよね。

そんなあなたにおすすめなのが、日本のモダニズム建築の巨匠、前川國男の建築です。
前川さんといえば、近代建築三大巨匠のひとりル・コルビュジエに師事した建築家で、西洋で生まれたモダニズムの考え方をいち早く日本で実践した方です。

なぜ前川さんか? というと、ひとつには歴史的な評価が確立しているということ。
日本の現代建築について論じた本(エッセーなどは除く)では、前川さんについての記述がないものを探す方が難しいのでは? というくらい、日本の建築にとっては重要な存在。
最新の建築にも大きく影響を与えているので、前川さんの建築を知っておくことはこれから建築を学ぶ人にとっては参考になる場面が多々出てくることと思います。

ふたつめが、全国各地で実作が見られるということ。
戦後復興期から高度成長期にかけて、多大な影響力をもっていた前川さんは、日本中で公共建築を設計しています。
これほど作品が各地に散らばっていることも珍しいですが、その多くが美術館や市民会館など自由に見学できる建築である、というのはなかなかないのではないかと思います。
どこかへ旅行するついでに前川建築を見に行く、というのも一興です。

そして3つめが重要なのですが、前川さんの建築の見方を指南してくれる良書がある、という点です。
それがこちら。


著者の中田準一さんは、前川さんが59歳のときに事務所へ入所し、前川さんが亡くなるまで所員として薫陶を受けた建築家です。
本書では中田さんが所員として建築を設計するにあたってどのような検討をしていたのか、そして前川さんとはどのようなやり取りがあったのか、ということを通して前川建築に通底する魅力を紹介していきます。

そしてここが面白いところなのですが、中田さんは前川建築を特徴付ける設計上のさまざまな工夫が、初期作品である旧前川自邸に現れていることを解き明かしていきます。

旧前川邸とそのほかの作品を設計者の視点で比較していくことで、ある手法がどのような意図で採用されたのか、そして結果的にどのような効果を生んでいるか、ということが読者にもわかってきます。
小さな住宅と大きな公共建築では規模も空間構成も異なりますから、同じ効果を生み出そうとしてもそのための手法が変わってきたり、同じ手法が違う効果を生んでいたり。
一冊読み終えるころには、前川建築の見方がわかるようになっている、というわけです。

僕が本書をおすすめする理由にはもうひとつあって、空間体験の言語化が本書だけのやり方で試みられている、という点です。
建築家や評論家が建築を紹介する文章はたくさんありますが、空間を記述するのって正解がないし難しいんですよね。

3次元の空間を言葉に変換する、という行為はずっと昔から行われてきたはずなのに、いまだに絶対的な方法が確立されていない。
ある場所に立ったときにそこからなにが見えるか、といった「それなら写真を見せてくれよ」という方法や、部材や寸法の説明など「図面でわかる」情報を羅列するとか、そういう方法がよくあるものですが、それで建築の魅力が伝わるかというとちょっと不十分な気がします。

本書ではたとえば中田さんが描いた図面を見て前川さんが言い放った「ムーブマンがないね」といった言葉から、「ムーブマン」を生むために中田さんがどんな工夫をしたのかといったことが書かれています。
しかし「ムーブマン」が具体的にどんな意味なのか、前川さんは教えてくれない。
それまでの前川建築と自分の描いた図面を見比べながら、どうすれば前川さんが納得いく建築になるかというのを試行錯誤したその過程を記述することで、前川建築のもつ空間性が言語化されていきます。

本書を読んだ後に実際に前川建築を見に行くと、それまで見落としていたさまざまな発見があって面白いです。

先日大宮にある「埼玉県立歴史民俗博物館」に行ってきたのですが、ここでも本書で書かれている前川建築の魅力の数々が見ることができ、大興奮でした。
たとえばこちら、メインのエントランスから見たところですが、旧前川邸でも採用されているある手法が応用されていて、それがこの空間性に寄与しています。

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実際に見に行って本書に書かれていることを追体験することで、たくさんある建築の見方のうちのひとつを身につけることができるわけです。

旧前川邸は東京の小金井にある江戸東京たてもの園で見ることができますし、都内近郊には多数の前川建築がありますので、ぜひ本書を読んで、前川國男を見に行ってくださいね!

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ここまで前川國男の建築について紹介してきましたが、今回改めて前川建築を見直しているのには、理由がありまして。
実はnoteに建築の記事を書かれている秋本さんが、建築をスキになったきっかけとして旧前川邸をあげていたんです。


建築の面白さをもっとたくさんの人に知ってほしい、と考えるロンロは、建築と関わりのない人がどんな風に建築の魅力に気づくのだろう、ということに関心があります。
秋本さんは小学生のときに旧前川邸に感銘を受けたそうで、そうであれば旧前川邸の魅力を伝えられるようになることは、建築の面白さを伝えることにつながるのでは? と考えたわけですね。

秋本さんは建築を専門にしていないにも関わらず、建築のコンテンツを発信することに挑戦されています。
哲学や語学をはじめ、幅広い知識と興味をもたれている秋本さんは、たとえば建築の部分を指す言葉にフランス語由来の単語が多いのはなぜだろう? など建築を学んできた人でもはっとするような視点を提示してくれています。
これから建築をテーマにどのようなことを書かれていくのか、そちらもぜひご注目を!

最後まで読んでいただきありがとうございます。サポートは取材費用に使わせていただきます。