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『情報を正しく選択するための認知バイアス事典 行動経済学・統計学・情報学 編』を読んで。

書籍名:『情報を正しく選択するための認知バイアス事典 行動経済学・統計学・情報学 編』
著者:情報文化研究所
出版社:フォレスト出版
発刊年:2023年1月3日

既に別の本で知っている物もいくつかあったが、第2章の統計学的視点や、第3章のラストなどは量子物理学、哲学などの学問横断的でとても興味深かった。それぞれのテーマについて既知ではあったが、それらをバイアスという視点で知れたことは大きい。

■情報源と、自分が受け取った情報は異なる?

陰謀論に引っかかってしまう理由という視点で見てみると、本書で取り上げられているバイアスの中の複数が絡み合っていることが分かる。
陰謀論を本気で信じて流布している人と、その陰謀論を受けとって感化されたり、半信半疑ながらも否定できずモヤモヤしたりする人達は、このバイアスの存在を知っているかどうかで受け取り方が変わってくるはずだ。

本書の最後の1項、「素朴実在論」はとても重要で、本書の統括とも言える。
同じ情報でも、人によって受け取り方は異なる。
よって元の情報Aと、受け取った自分のA’は、厳密には異なる情報となる。
当然、自分と違う人が受け取ったAはA’’であって、これもまた自分のA’とは別物と言える。
果たしてAは正しくて、A’やA’’は間違っているのか。

自分というフィルターを挟んでいる以上、A == A'とはなり得ない。
そうすると、「正しく情報を受け取る」ということも、
いやそもそも「正しい情報」というものも、厳密にいえば存在しないのかもしれない。
裏返せば、全て正しいとも言える。なんてこった。

極論、全て思った通り恣意的に受け取ってもよいし、
逆にすべて疑ってかかる必要もある。

しかし現実的に、前者はあまりにも危ういし、後者はあまりにもしんどい。
受け取る情報の選び方も、受け取り方も、解釈の仕方も自分なりの正解に近づけていく必要がある。

■「風の時代」に備える?

スピリチュアルな思想をもとに情報商材に繋げる手法が多い。
下手に散財しないためには、こういった情報を受け取る際にバイアスや素朴実在論についての前提知識が求められる。

例をあげよう。
占星術やビジネスの世界で、昨今「風の時代」という言葉が使われる。

これは産業革命から現在に至るまでの期間、
物質的な「モノ」や資産や固定的・安定的なステータスを重視してきたことを「土の時代」と比喩し、
インターネットや信用経済や人の関係性、クリエイティビティといった、目に見えない価値を重視するように近年転換してきたことを「風の時代」と表すことから来ている。
(なおこの考え方は古代ギリシアのヘラクレイトスの万物流転の思想から来ている。)

目に見えないものにも価値を置くこと自体は問題ない。
愛も、友情も、音楽も、信念も目に見えない。

しかし、「これからの時代は権威とか根拠とか証拠とかを重視していては生きていけない。直観やスピリチュアルな感性が大事である」という言論が出てきたら要注意だ。

ヘラクレイトスは水腫にかかって亡くなったと伝えられている。
彼は、身体の中に水が溜まっているのであれば、反対のエレメント、つまり火を用いることで対処できると考え、
自ら牛糞に潜り込み、その熱によって身体の水を蒸発させて直そうとした。
しかしそれで治るはずもなく、病気が悪化し亡くなったとされる。

四大元素の考え方は長い間、医術に使われてきた。
ペストや黒死病が猛威を奮っていた中世でも、まだ四大元素の思想を基にして医術を行っていたが、効果があるものもあれば、ないものもあった。
また聖書にしても神話にしても、科学的に根拠がないものを「これは正しい」と信じ込み悲劇となった例は列挙するに暇がない。

■陰謀論における数々のバイアス

直感や感性自体は大事なものである。
しかし科学、エビデンスを軽視し、直観や感性に訴えかける物言いには、
本書でいえば、限定合理性、ウーズル効果、敵対的メディア認知、どこでも効果といった多くのバイアスが含まれている。

幽霊の証明のように、正しいとはっきり言えない情報を反証することはできない。
なので、「実は裏で大きな力が働いてこの事件が起こった」と言われても反論しにくい。

その可能性もあるかもね、と受け取って、合理的に受け取ることの積み重ねで、自分に間違ったシナリオが蓄積していく可能性が、限定合理性によって生じ得る。

ウーズル効果というのは、誤った情報でも、参照されることを重ねて何度も受け取ることで正しいように感じてしまうバイアスだ。
これを狙って、フェイクニュースを大量に生み出して世論を操作しようとした実例は多い。
人は単純接触効果(ザイアンス効果)によって、間違った情報であっても、何度も刷り込まれることで好意的に受け取ってしまうのである。

また敵対的メディア認知との関りでいえば、
「メディアは影の権力者に都合の良い情報を流している。メディアに騙されるな」
という言葉も陰謀論の定番である。

自分の不遇な立場を煽り、陰謀論によってメディアの信用度を下げ、他の情報を遮断されると、
陰謀論の情報発信者にとっては非常に都合がいい。自分の信者になってもらえる。
ちなみにこれはヒトラーが徹底的に活用していた方法でもある。

どこでも効果、というのは、一見、統計的に意味があるように感じられる偶然のことを指す。

例えばニュースで痛ましい事故や凄惨な事件が立て続けに起きた場合、
本来は偶然がただ重なって密に起きただけであったり、
もしくはこれまでも頻繁に起きていたものが注目したことによって意識に上るようになっただけのものが、
「急に事故や事件が増えた。これが偶然だと思いますか?そんなわけないですよね。仕組まれているんですよ」、だとか、
「世の中が大きく変わる前触れだ。準備せよ」のように不安を煽るのに使われたりする。

■自分のものさしを磨く

人が物事を疑い続けるのも、真実を調べ続けるのも難しい。
どこかで折り合いを付けなければならない。

自分なりの線引きが必要で、それをどこに引くか。
この問題は一筋縄ではいかない。

それでも常に情報をアップデートして、自分のものさしを磨いていかなければ、どの落とし穴にはまってしまうかわかったもんじゃない。

余裕をもって生きれるように、
こうしたバイアスについては、引き続き理解を進めていこうと思う。

以上


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