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第十四話 カオスへ踏み込む


 タイ・バンコク。うだる様な暑さ、排気ガスに曇る街、そして街を覆う独特の匂い。
ヨーロッパで沢山のアジアの人達に出会った事がキッカケで、大学卒業と同時に期間無制限、行先未定にて、僕は片道チケットだけ買ってアジアへと来ていました。

当時のタイは赤いパブリックバスが3.5バーツ。ご飯は10バーツ程度と恐ろしく安い。1日、宿代含め数百円で過ごせるくらいの時代でした。

トゥクトゥクもまだ観光客向けではなく元気に市民の足として活躍していました。

夜のバンコクに到着すると、かつて味わった事の無い不思議な空気感がありました。
でも、ヨーロッパとかとは違う、どうにも馴染み易い空気。
着いて間もなくだというのに最初の旅の時の様な緊張感は無く、不思議と落ち着いてました。

空港からバスに乗り街に到着。
そこで、とても親切な中国系の老人の手伝いがあり、僕は先ず、ラマ四世通り近くのチャイナタウンやマレーシアホテル周辺で宿探しをする。

夜の宿に到着すると、レセプションには娼婦達が列ぶ。
どこからともなく、怪しい匂いが漂ってくる。

もう国を離れてどれくらいが経つのだろう?そんな旅行者達が集まり、会話する。
ヨーロッパとはまるで違う。
ああ、これがアジアか。

最初から強烈なインパクトでした。

 当時はまだジュライも営業していた時代(*チャイナタウンにある有名な安宿。長期滞在、ドラッグを使用する旅行者も多く、警察の手入れもしょっちゅうでした)、アジアの「カオス」が、今よりも強かったような気がします。
 
「北部(タイの)で良いの手に入れたよ。今夜どう?」こんな声がよく掛かる。
リゾートなどで集中的に働き、その資金で毎年タイのし女性を買いに来る、日本の30代フリーター。
西からずっと陸路でアジアまで横断してきた、ヨーロッパからの旅行者。インドとタイを行ったり来たりしてるヒッピー、サドゥーのような放浪者。シルバーの買い付け人。アクセサリーの素材を探し、そして作り、日本で売る職人。ヘロイン中毒で、幻覚や妄想癖も出ているやばい人(その後すぐに病院に)。
 
今までの旅よりもはるかにディープな世界に住んでいる人々と出会いました。
 
 僕のこの旅は特に目的は無いが、強いて言えば、遺跡を見てまわるという事くらいでしょうか。
大学に入って間もなく、明大の友人のツテで、学生時代から考古学の仕事のアルバイトをしていました。

その資金で今回の長期旅行に行けるようになったのですが、帰る必要というか、今後の行き先、計画、やりたい事などが明確になかった僕は、長期組の格好の餌食でした。

「あれあれ?何してるの?会話の本なんか読んじゃって。会話なんて実践、実践。夜のバンコクツアー開催するよ!(完全に強制)」

いきなり夜のバンコクの街へと連れ出されたのでした。
 
 まとわリ着くような夜のバンコクの空気。ネオンがビカビカ光る。すごい音。あやしいお姉さん達(いや、お兄さんも?)。
 
 台の上、腰をくねらし全裸で踊る女の人達。
なんかビールが出てくる。隣に女のコが来て、勝手に注文する。
「何だこれは?何だ?この世界は??」
 
自分の置かれた環境が、全く理解出来てない。
僕は旅に出たはずなのに、一体何故こんな所に連れて来られ、何でこんな事になっているのだろう?

訳がわからない。
 
暫くして外に脱出すると、今度はレディボーイと言われる人達がまとわりつく。

「お兄さ〜ん、遊ばない?」
「いや、ごめんなさい。本当にすいません。」
全く免疫の無かった僕は、そんなお兄さん達に囲まれ泣きそうになり、とにかくビビりまくり、ただ、ただカルチャーショックでした。
初めてのアジアは、非常に刺激の強いものとなりました。
 
 さてさて、そんな濃い空気のバンコクへと迷い込んだ僕は、今度はこの国の料理、
そう「タイ料理」の洗礼を受ける事となったのでした。

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