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【読書感想メモ】『Good to GO』なぜ運動後に「リカバリーをする」必要があるのか?そして効果のあるリカバリー方法とは何なのか?

このnoteは『Good to Go 最新科学が解き明かす、リカバリーの真実』の内容から個人的に興味を持ったものを、一部感想も交えてメモしたものです。概要を知ったからといって面白さが減る書籍ではないと思いますが、これから読む方はご注意ください。実際にいろんなリカバリーを体験したときの筆者の描写は面白いので、ぜひ読んでもらいたいです。

「リカバリーをする」時代への疑問

従来、リカバリーとは休息など「何もしない」ことを指していたが、近年「リカバリーをする」と、特別なことをするようになった。これらの行為は本当にプラスなのか、逆に休息を妨げマイナスになっていないか?そういう疑問からこの本は始まります。

有望だと思える新発見はマーケティングで誇張される

「魅力的なアイデアに科学のスパイスを振りかければ、それが本当らしく見えることがあります」スポーツドリンクに関する研究106件のうち、被験者が100人を超えていたのは1件のみ。2番めのもので53人、平均するとたったの9人だったそう。塩分を「電解質」と言い換えたのもマーケティングです。飲料メーカーはスポーツ医学会に資金援助をしています。

ただ一つの理想的な食べ物がある、という単純な考え

「特別な力を与えてくれる成分や化合物を含んだ、万能薬のような食品を求めている」しかし、ウサイン・ボルトが選手村でマクドナルドのチキンナゲットばかりを食べて結果を残したそうです。十分な栄養が取れていれば、ホメオスタシス(恒常性維持機能)によって、人間の体は適応します。

短期的なリカバリーが長期的に悪いことになる場合もある

 「リカバリーの速度を上げようとして長期的な適応が犠牲になる」という話です。近年のアイシングに対する批判は、痛みを減らすために炎症を抑えることは治癒効果を減らすと言われています。アイシングを普及させたガブ・ミアーキン医師は、今では批判側に回っています。
 また、アイシングに関しては、最初に強い痛みを感じることによって、その有効性を信じさせている面もあります(アクティブ・プラシーボ効果)。アイシングについては盲検法が難しいからです。
 ちなみに、筆者がクライオチャンバーを体験したときの描写は面白いです。体感的にはアスリートが好みそうだということが伝わってきます。

リカバリー製品の多くは血流の改善を目指すのだが

 血流改善に関しては”毒素””疲労物質”を排出する、という表現が氾濫していますが、その内容は不透明です。FDAから宣伝文句を禁止された製品もあります。マッサージも、血流促進よりもアスリートが自分の筋肉の状態を自覚しやすくなる事による効果ではないかとしています。

アスリートの血行は、普段の運動によってすでに良好に保たれています。アスリートのリカバリーを大きく妨げているものがあるとすれば、それはおそらく血行の悪さではありません。それに私達はみんな、血行を促すもっとも簡単で効果的な方法が運動であることを知っています。

心理的なストレスは怪我の確率も高める

 心理的ストレスは、リカバリー阻害だけでなく身体へのトレーニングへの適応を鈍らせる、それはスポーツによるストレスに限らない話だそうです。ストレス対策は「このストレスに対処できると考えていれば、対応できる。対応できないと考えていると、ストレスは悪化する」。

あらゆるリカバリー手法を足し合わせても、睡眠にはかなわない

「睡眠はリカバリーのメインディッシュです。残りの方法はすべて添え物なのです」とまで言い切っています。
 面白いと思ったのは、慢性的な睡眠不足には眠気を感じにくくする作用があるということ(これは個人的に実感あります)。また、”平均より質の高い眠りが取れている”という偽情報によって認知テストで良い結果が出たそう。

サプリメントが持つ危険性

 USADA(全米反ドーピング機関)はアスリートに、同機構はサプリメントの安全性や純度を保証できないと伝えているそうです。実際にドーピング物質が混入したサプリメントによってドーピング陽性反応が出たアスリートが出ています。逆に、ドーピングに引っかかった際にサプリメントのせいにしようとした例も出ています。
 しかし、FDA(アメリカ食品医薬品局)は発売前のサプリメントの安全性をチェックできず、FDAの権限を強めようという試みは業界によるロビー活動で妨げられています。

『オーバートレーニング』ではなく『リカバリー不足』

 オーバートレーニング症候群をUUPS(unexplained underperformance syndrome:原因不明のパフォーマンス不振症候群)と言い換える主張もあるそうです。その原因はリカバリーが不十分な状態だということ。
 トレーニングの量がアスリートほどではない中高年のアスリートも同じ状態になりやすいと指摘しています。アスリートよりも日常生活でスポーツ以外のことも多く抱えているので、リカバリーの時間が不足するそうです。

ストレスへの反応は一人ひとり違う

 健康な人にスクリーニング検査をすると、答えよりも多くの疑問が浮かぶとしています。その原因として「血液検査の参考基準値は95%の信頼区間」を用いていることを指摘しています。これは5%の健康な人がその範囲から外れることを意味します。20項目あればどれか一つは引っかかるとも言えるかもしれません。

”重要なものが全て数えられるとは限らない

 また、数えられるものが全て重要だとも限らない”(マクナマラの誤謬:McNamara fallacy 定量的なデータを重要視しすぎること)データ管理、分析は魅力的ではあるが、まだスポーツ科学が到達できていないレベルのことを、確実性があるという印象を与えてしまう危険性があります。
 いちばん重要なのは、アスリートがその負荷をどう体感しているか。主観的運動強度RPE(rating of perceived exertion)を捉えるべきとしています。

本当に効果のある”プラシーボ”

 ストレッチに関する科学文献は、ストレッチがリカバリーに役立たないことを示していますが、その効果は疑問視されていません。儀式化され主体的に関わっている感覚、なにかが起こっているという感覚が得やすいため、優れたプラシーボだとしています。
 複数の痛み止めクリーム(ただし全て偽薬)の中から、アスリートが自分で一つを選んだときのほうが、実験者から指定された一つを使うときよりも効果が高かったそうです。自分で決断することがプラシーボ効果を高めると言えます。ここには、自分のやれることは自分でやりたいというアスリート心理もあると思われます。
 筆者は「快感」「痛み」「実感」「科学的権威」などがプラシーボ効果を強化する要素としてあるとしています。

最終的に筆者は「リカバリー手法を実践する最大のメリットは、リカバリーについて熟考する手段が得られること」としています。それこそが「リカバリーをする」意味なのだと思います。

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