わたしたちの結婚#5/散策デートと視線の先
梅の木にとまる、ウグイスの写真が夫から送られてきた。
「今日、梅の下見をしてきました。週末にはちょうど見頃だと思います」
私との約束のために時間を作ってくれていることが嬉しくて、また楽しみになった。
それぞれの希望を伝え合った結果、お寺を見学し、夜ごはんを食べ、梅のライトアップに行くというプランになった。
当日、夫は待ち合わせ場所までいつもの車で迎えに来てくれた。
「今日は駐車場を予約してきたんです」
夫は、少し得意気に話し始めた。
アプリで事前に決済でき、あとは当日予約時間通りに駐車すればよいという仕組みだという。
「これなら駐車券をなくさなくて済みます」
あまりの生真面目さに笑ってしまった。
「再発防止策がばっちりですね」
私はおどけて言った。
彼が落ち込んでいなくてよかったと思った。
そして、私が心配しすぎなくても、この人はちゃんと強い人なのかもしれないとも、思った。
お寺は空いていて、散歩するのにちょうどよかった。
穏やかな時間が過ぎた。
私たちは故郷の話をした。
雪が降ることや、夏の暑さについて。
夫はこの日はカメラを持っていなかった。
今日は写真を撮らないのですか、と聞くと、
今はiPhoneで十分きれいな写真が撮れるんですよ、と返事が返ってきた。
一眼レフを顔にくっつけて、夢中で写真を撮る夫を見るのが好きだったので、ちょっと寂しかった。
「夢中になってしまいますから」
夫は小さな声で付け足した。
夫があの日家に帰ってから、今日はちょっと夢中になりすぎてしまった、と反省したのだとしたら、なんて可愛らしいんだろうと思った。
お寺の建造物をまじまじ見たり、簡単な感想を述べたりしていると、
「ロンさんは建造物がすきなのですね」
と夫が言った。
お寺に着たら、お寺を見るものだと思っていた私は、キョトンとした。
「自分はどちらかというと自然が好きですね。人の手を感じない、雄大な自然が好きです」
そう言いながら、iPhoneを夕焼けにむけていた。
お寺をフレームの右端にそっと写し、鮮やかな朱色と、早くも暗闇をまとった濃い藍色が混ざり合う空を撮っていた。
私の手元のiPhoneの画面には、お寺がデカデカと写し出されていて、確かに、私の画面の主役は建造物だと思った。
夫の瞳に写る世界では、人間は主役ではなくて。
優しい動物や、美しい自然がそこにはあった。
同じ場所にいるのに、こんなにも美しい世界を感じ取れる人がいるのか、と目を丸くした。
この人の瞳に映る世界を、彼の撮る写真を通して、もっともっとのぞいてみたいと思った。
ロン204.
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