例と揺らぎ〈龍孫江の環論道具箱〉
前回は,可換環の例として比較的馴染み深い例について紹介しました.慣れ親しんだ例とはよく出くわす例とも言えて,よく見て触れるからこそ馴染み深くなっていくわけですね.
しかし,そんな良い例ばかりでもありません.抽象化している以上は,奇妙な例も含まれてしまうわけです.今回はそんな微妙な例をいくつか紹介しましょう.
1.行列環
実数に成分をもつ$${n}$$次正方行列の全体$${M_n(\mathbb{R})}$$は,通常の行列の加法および乗法を演算として環をなす.ただし,$${n \ge 2}$$のとき$${M_n(\mathbb{R})}$$は可換環ではない.
前回「多項式環は可換環の典型的な例」と述べました.この言明に対応する意味で「行列環は非可換環の典型的な例」であるとぼくは思っています.
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