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居間|クリスマスの訪問客

 モーヴ街の街路樹は色づいて、冷たい風が吹く季節になりました。それぞれのお店にはクリスマスを待つ華やかな飾りが付き始め、通りは一層賑やかでした。
 10番地のロマランでも、お裾分けしてもらった小さなもみの木を一つお店の前に置き、そこに金色の小さな鈴を付けた菫色のリボンをふたつ結びました。なにしろここへ越してきて初めて迎えるクリスマスですので、飾るものなどは一つも持っていなかったのです。だけどこれだけでもマダム・ロマランには十分に華やかな飾りでした。

 窓から金色の陽が穏やかに差す午後でした。
 マダム・ロマランは、キッチンから先週買っておいた赤ワインの瓶とグラスを一つ運んできました。今日はクリスマス・イヴですから。こんなにゆっくりと心静かに迎えるクリスマスは何十年ぶりでしょうか…。とても穏やかな気持ちでワインをグラスに注ぎました。グラスを傾けると赤い色が陽に透けて輝きました。

不思議な羽

 その時、モーヴ街の散歩を終えた猫アロムが窓辺に戻ってきました。窓を開けアロムを部屋へ入れると、マダム・ロマランはアロムの背中に見たことのない羽を一枚見つけました。その不思議な羽は驚く程に軽くて柔らかく、菫色かと思えば薄緑色に変化し、時折金色に輝きました。
 気がつくと不思議な羽は二枚、三枚と、部屋の中に舞っていました。

不思議な羽

 小さな鈴の音が鳴ったような気がして窓辺を見ると、羽の生えた子供がふたり、ふわりと浮くように立っていました。実際には立っていたのかどうか分かりませんでしたが、立っていたように見えました。ふたりはこちらを見て、何か言葉を発したようにも思えましたが、それは言葉ではないもののようにも思われました。
 マダム・ロマランは、何故なのかこの子供たちをずっと昔から知っているような気がしました。もしかしたら、どこかで話を聞いたことがある「天使」と呼ばれるものかもしれないと思いました。

ふたりの天使

 ふたりは微笑んで、また何か言葉を発したように見えましたが、やはりそれは言葉ではなく、何か情景のようなものでした。マダム・ロマランは耳をすまし、いえ目を凝らし、と言ったら良いでしょうか、とにかくふたりに対して全ての感覚を委ねるようにしていると、その情景のようなものが朧げながらだんだんと見えてきました。

ふたりの天使

 昔々、マダム・ロマランもまだ生まれていない昔、もしかしたらイエス・キリストの生まれる前の昔、或いはもっともっと昔の情景でしょうか。海にはどんな風が吹いて、小川はどんな水が流れ、空はどんな色をしていたでしょう。そこにいる人々はどんな表情をして、何を思い、何を話したでしょうか。花や木や動物たちは・・・? 今いるここと何が変わり、何が変わらないでしょうか・・・?

 マダム・ロマランは、その朧げな情景をすぐに書き留めたい気持ちにもなりましたがそれもできず、ただぼんやりと眺めていました。
 それはとても心地良い時間でした。

クリスマスの夢

 はっと気づくとテーブルの上でうつ伏せになっていました。いつの間にか眠っていたようでした。テーブルの上の空になったワインの瓶の横では、猫アロムがゆったりと寝息を立てていました。
 その傍には不思議な羽が一枚、落ちていました。

クリスマスの夢

 Joyeux Noël !
 素敵なクリスマスを!

フランスガム|イラストレーター →HP
小林晃(aki kobayashi)という名前で雑誌や書籍、広告などの媒体で活動しています。フランスガムという名の元に、展示や様々な創作活動を行っています。
あなたのすごく近くにあるかもしれないし遠くにあるかもしれない、どこにもないかもしれないしどこかにあるかもしれない世界、を創作しています。



作家名|フランスガム
作品名|不思議な羽

アクリルガッシュ・シリウス紙
作品サイズ|7.8cm×6.5cm
額込みサイズ|10.5cm×9.5cm
制作年|2022年(新作)

作家名|フランスガム
作品名|ふたりの天使

アクリルガッシュ・シリウス紙
作品サイズ|15cm×11cm
額込みサイズ|11.5cm×8cm
制作年|2022年(新作)

作家名|フランスガム
作品名|クリスマスの夢

アクリルガッシュ・シリウス紙
作品サイズ|16cm×16cm
額込みサイズ|29cm×24cm
制作年|2022年(新作)

著者名|フランスガム
書名|絵本『Madame ROMARIN  マダム・ロマランのお話』
ロマラン・シリーズ I
30ページ/17点カラーイラスト収録/A5版
発行年月日|2022年5月13日
発行所|フランスガム社

絵本収録作品展示販売中

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