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瀬々敬久「ギャングよ 向うは晴れているか」

アテネフランセ文化センターで、瀬々敬久「ギャングよ 向うは晴れているか」 撮影は松岡邦彦。

菜の花畑に 入日薄れ 見わたす山の端 霞ふかし 春風そよ吹く 空を見れば 夕月かかりて 匂い淡し

離れ離れになった母親の象徴である、いちめんの菜の花畑を探す少女モモ(山谷美香)は、ヤクザ同士の抗争事件から逃げるテツ(桜井篤史)、浅沼稲次郎暗殺事件に興味を持つ右翼少年ボー(岡山敦)と知り合い、三人で日本脱出にチャレンジ。大阪港から韓国に向かうが、敵対する追手がヤクザと少年を射殺、涙に暮れるモモが見た空は晴れていた。シュールで観念的でロマンチックな短編映画。

感想を勢いで書いてみたけど、ホントにこんなんだったかな?とにかく「いちめんの菜の花畑」と「浅沼稲次郎暗殺事件の映像」の二つがリフレインされ、フラッシュバックのように脳裏に浮かびあがり、恐らく「ションベンライダー」ぽかった物語の方は霞んでいく。ロマンチックで観念的な作品で、バッドエンドなのに観終わった感じは悪くないのが、とても不思議な感覚だ。

三人の主人公はヤクザ者、右翼少年、菜の花畑を探す少女。このモチーフだけで30分弱の物語を一気に駆け抜ける。京都大学に在学中だった瀬々監督が16ミリフィルムで撮影した自主映画で、ヒロインの「モモ」という名の少女は、ピンク映画監督デビュー作「課外授業 暴行」2作目「獣欲魔 乱行」を中島小夜子が演じることで、連続する物語として受け継がれていく。

相米慎二「ションベンライダー」を彷彿とさせる、男女三人の冒険大活劇の要素をたっぷり盛り込みながらも、作品のベースにあるのは、母親を探す少女モモの脳裏にいつも焼き付いている「いちめんに咲き誇る菜の花畑」そして、テロリストを志向する右翼少年が脳裏に思い描くアナーキストの形「浅沼稲次郎暗殺事件」の心象風景である。

舞台は京都、モモとボーの脳裏にはビデオ撮りされた「菜の花畑」と「浅沼稲次郎刺殺シーン」が何度も挿入され、冒険活劇として躍動している物語に何度もブレーキをかけながらエンストを起こしていく。三人の男女はこんな日本を脱出したい。テツが敵対ヤクザの追っ手を逃れ目指す先は韓国。そのためには金が必要だ。

京都にいたモモとボーは、目の前に道路のマンホールを見つけると、「ここから脱出できるんだ」二人は地下を走り抜け、出てみればそこは大阪湾であった。テツは、敵対ヤクザから奪ってきた資金の一部をボーとモモに渡す。でもボーは「俺は要らないよ」自分の分をモモにあげた。

モモは、テツとボーを隣に従えながら、13歳の無垢な少女でしか持ち合わせない小悪魔的な魅力を振りまく。モモは家族でピクニックに行ったいちめんの菜の花畑を想いながら、テツとボーと一緒に韓国行きの船に乗るため大阪湾に浮かぶはしけに乗り込んだ。でも、寸前でテツとボーは追って来た三人組に殺された。

モモははしけの上で一人ぼっちになってしまった。モモが空を見上げた青空は一面に晴れ渡っていて、まるでいちめんに咲く菜の花畑のよう。モモはニッコリ微笑むと、エイっと海の中に飛び込んでしまった。

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