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弓削太郎「掏摸(すり)」

ラピュタ阿佐ヶ谷で、弓削太郎「掏摸(すり)」 脚本は八尋不二。

本業は仕立屋だが手先が器用でスリになった男(本郷功次郎)が、スリ組織の縄張り争いに巻き込まれる中、偶々スッた財布に政界汚職の証拠書類が入っていて被害者の官吏が自殺、残された娘(高田美和)への償い切れない贖罪が哀しいロマンチック通俗ドラマの良作。

ロマンポル脳の私をしても大映の隠れたエース弓削太郎の作品は出来るだけ観ることにしている。とにかく堅実で上手いのだ。映画黄金時代の頃だったのだろう、やがてテレビに取って代わられるようなオーソドックスな通俗ドラマは脳の右から左に流れ消えてしまうような軽やかさだ。

チケットを買う時にタイトルが読めなかったんだよ。「摸」っていう字は麻雀の「自摸(つも)」の一字だから、私は間違えて「つも」って読んでた(笑)「掏」という字も当用漢字に無いと思うんだけど、実はこの字だけでスル、人の物を盗む、抜き取るっていう意味があるんだよね。使わんけど。

私にとって高田美和と言えば、もう小沼勝「軽井沢夫人」のヒロインの熟女というイメージしかないんだけどw清純派アイドルだったのよね。本作でも父親が重要書類を無くした失態を責められ自殺した可哀想な娘の役、でもこれ、最近の日本で、財務省で同じような事件無かったっけ?

弓削監督の上手い所はとにかくメリハリが効いていて、物語としてはホンが悪いのか支離滅裂な部分も多いんだけど、飽きさせない趣向を凝らし続けて一気に最後までテンポよく見せる。これって映画よりも元々テレビ向きだと思う。そういう意味で時代を先取りした監督だったんだな。

主演は仕立屋スリの本郷功次郎と、彼のスリが原因で父親を自殺で亡くす高田美和。二人の淡いラブロマンスなんだろうけど、とにかく脇役がスゲエ一杯登場して、大映映画を好んで観てた、観てる人には堪らんのだろうなあ、これ(笑)私も本作を観てお気に入りの脇役俳優が出来ましたw

本郷功次郎のスリの腕に惚れこみ兄弟分になる渡辺鉄弥。死神のようなベテランスリの星ひかる。星が財布をスル気配で腕ごと切断する(笑)浜村純。星の無念を胸に本郷のライバルとなる無頼のスリ滝田裕介。他にも個性的な面々がちゃんと見せ場があるんだよね。素晴らしいことだ。

スリっていくらカッコ良くても所詮ヤクザと同じでアウトロー。美和さん、こんなあっしに惚れちゃあいけません。そんな(笑)スリに身を落とした哀しい男の運命を描くような作品だから、深作欣二のようにも池広一夫のようにも作風なると思うんだけど、弓削太郎はいい意味でユルいw

実際にスリを行う場面が何度も登場して、手慣れた手つきと鮮やかな手口は犯罪助長映画ですか(笑)特に、財布を一度スッて金だけ抜いて元に戻すとか、用心深いターゲットにはカミソリでバッグごとザックリ切って財布を抜くとか、様々な手口が紹介されて参考になる(こらこらw)

音楽が素晴らしい。だって池野成なんだもん。彼は様々な映画音楽を手掛けていて、通俗ドラマでしかない本作は通り過ぎていくような地味な一篇だったのかも知れないけど、安定してますからね。スリという反社会的行為とそれによって不幸になる者のヒューマンドラマで、劇伴は重要。

物語は、敵対するスリ組織の話はまあ置いといて(笑)本郷が美和の父親(早川雄三)の財布をスッたら、上司である政府高官(内田朝雄)の汚職の証となる重要書類(手書きの領収書)が入っていて早川自殺。哀しみに暮れる美和の愛情を振り切って、スリの旅へと出る本郷なのであった。

物語本編と全く別に面白いのは、いかにも女だてらに一生懸命な久保菜穂子が親分のスリ組織「清水一家」に、見た目からしてワル当確の成田三樹夫が親分のスリ組織「巾着屋一家」がシマ荒らしを始める。本郷は最初は素人のスリなんだけど菜穂子と杯を交わしてプロになるんだよね。

面白い通俗ドラマに必要不可欠なのは対決要素で、伝説の老剣士(浜村純)の財布をどっちがスルことができるか?先に巾着屋陣営の星ひかるがチャレンジして腕を斬り落とされて(笑)ブルった清水一家陣営の青年に代わって本郷が老剣士にチャレンジするんだけど、お前は一休さんかよw

とんちが効く(笑)本郷は老剣士の浜村に「こんちわー」と爽やかに語り掛け「今、あなたの財布をスルことができるか賭けてるんです」正直に用件を言った本郷に「スリなさい」とあっさり認めてやる浜村wwwこんなでスリが成立するなら苦労無いわい!とみんな思っていそうだw

最初は仕立屋で器用に服を縫う本郷の日常生活に清水一家の渡辺が入り込んで来て兄弟分になったはいいが、問題は本郷がスッた財布の中身。被害者の早川は工事入札に関する監督局の局長秘書で、金とは別に局長が業者から賄賂を受け取る手書きの領収書が入っていたんですよねー

本郷はどうせ大した中身じゃないだろうと弟分の渡辺に気前よく財布を渡し、渡辺は領収書の存在に気づくと早川の職場を訪れゆすりを始める。早川がやっと作ったなけなしの金を受け取ると財布は返さない極悪非道の渡辺(笑)早川は自殺しちゃうんだけど金策した借金だけは残る。

渡辺は早川自殺という大事件に発展して、まさかのホントのことが言えぬまま、独り残された美和が喪主を勤める葬儀に出席。何かと美和を気に掛ける色男の本郷のことが段々好きになる美和なんだけど、それは本郷が罪の意識に悩んでいるからなんだよね。美和は父親の借金のこともある。

テンパった渡辺が美和に「すみませんでした!」早川を脅迫してた件をカミングアウトして、美和の怒りのビンタがバシーン!でもね、卑怯なんですよ本郷、ホントはお前がスッたんだろうって(笑)本郷は良心の呵責に苛まれ、美和の借金をスリで返すことを決心、プロになる。

本郷のスリの腕は、それはそれは確かなもので、あっという間に借金と同じ額をスルんだけど、刑事が見張り始める。同時に以前に恥をかかされた巾着屋一家の滝田が事件の匂いを嗅ぎつけ、美和が監督局に返しに行く途中にカバンの大金をスリ、美和は今度こそ途方に暮れてしまった。

本郷は滝田と直談判「その金を返せ」でも局長汚職の証書は返さない(笑)滝田は本郷をサイコーのライバルと認めたので「よかろう」だってwww本郷のスリにも一滴の良心あり。現行犯逮捕を狙う刑事に監督局長の汚職の証拠として書類を渡し、敢え無く局長は逮捕されましたw

で、美和と本郷の恋路はどうなったかって?最後まで本郷は「お父さんの財布は私がスリました」とは言わない、いや、言えない。美和が自分に惚れてることを本郷は重々承知なんだけど、俺はスリ、住む世界が違う。菜穂子親分の手引きで大阪に舞台を移しスリ稼業に本腰入れる所存。

元はと言えば縁日で賑わう街中で渡辺がスッた財布を本郷がスリ返したことで始まった物語は、菜穂子親分の盃を受けてスリ稼業に身をやつした本郷が美和の亡き父の無念に対し出来る限りの贖罪をした後は、汽車の中でスキだらけの乗客を狙い、手で座席をサワサワして終わりますw

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