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武田一成「お母さんのつうしんぼ」

2022年4月ラピュタ阿佐ヶ谷で、武田一成「お母さんのつうしんぼ」 原作は宮川ひろ。 脚本は勝目貴久と熊谷碌郎の共同。

小5の夕子は3歳で父を亡くし、出版社で働く母親(藤田弓子)弟の広志と団地で3人暮らし。彼女は母の誕生日にサプライズ計画するも、約束をすっぽかされ、覚悟の家出し長野に住む祖父母の元へ。追いかけてきた母に父の死因を教えられ、事故死した黒部ダムで叫ぶ「お父さーん!」途中からロードムービーに変わる児童映画大作。

前半は母子家庭で奮闘する夕子ちゃんの喜怒哀楽を描くミニマルな団地児童映画にとどまるが、後半に入って夕子が母親の無関心に苛立ち家出することにより壮大なロードムービーに変貌していく様は、余りに意外(笑)まさか長野県北安曇郡から黒部ダムまで到達するとはw

大傑作「先生のつうしんぼ」の姉妹編のような感覚で観たら大違い!冒頭で日活児童映画株式会社は設立されているわ、取材協力に黒部ダムやら黒部峡谷鉄道やらズラズラと登場し、下手な一般映画より予算もキャストもロケもずっと手がかかっていることにびっくり仰天!

児童映画だけど主役は児童ではない、藤田弓子です。お母さん役という微妙な年齢設定ながら(笑)長女の夕子が3歳の時に黒部ダムの事故で夫を亡くし、シングルマザーで働く母さんは夜の部もきっちりこなしているようで「女」を捨てておらず夕子はこのことに嫌悪感w

「四年三組のはた」「先生のつうしんぼ」に比べると随分、登場人物は揃ってワルよのうw生徒たちも小学5年生に思えない位に色気づいていたり悪知恵が働いたり、周囲の大人たち含めてオバQのようなほのぼの映画からドラえもんのようなリアリズムの世界に変貌してるw

ロマンポルノ的にはですねえ(←この紹介の仕方やめろw)宮下順子が夕子の友達のいいとこのお嬢ちゃんの母親。「ババロア作ったけど食べてく?」娘が自慢げにおニューのエレクトーンを弾き始め、負けず嫌いの夕子は順子に「ごちそうさまでした」涙目で去って行く。

山口美也子は藤田弓子と出版社の同僚で、まんまこういう人いそうだなあ、という以外に特に感想はない。それよりも、夕子のクラスの二宮さよ子先生が長女の入学式出席のため学校を休んだ時、代理でやって来る三谷昇のルックが「女教師 汚れた放課後」みたいで苦笑w

小2の広志君がお母さんにローラースケートを買ってもらえず下駄で自家製ローラースケートを作って虐めっ子グループに取り上げられ、割られ、挙げ句に川に投げ込まれる修羅は大人が観ても悪寒しかしない。どうしてこんな演出をしたのか、もし可能ならば武田監督に質問したい(笑)

スケベで乱暴で血も涙もない、ジャイアン以下の悪者山口は、なぜか近鉄バファローズのスゲエ珍しいデザインの帽子を被ってる。広志君は昭和の定番ジャイアンツ帽。アンチ巨人の私としては山口がどんな卑劣なジャイアンでも近鉄ファンというだけでなぜか許せるのだw

全体を通して何だかムカムカするのは、藤田弓子演じるお母さんは仕事最優先なのはまあ許せるとして子供に自分の価値観ばかり押し付け欲しい物は一切買ってあげないケチ。恐らく金は持ってるんですよ。俺がお母さん弓子に通信簿付けるとすれば赤点、落第お母さんだ(-_-)

前半でキラリと光るショートリリーフ黒川君。福島から越して来たという彼は昆虫や植物にとても詳しく、夕子は密かに恋心を抱く。本作でもアブナイ人には有名らしい鉄棒で逆上がりのシーン。夕子が逆上がりできなくてウンウンしていると優しく持ち上げてくれる黒川君。

でもね(←でもね、じゃねーよw)逆上がりを補助するには当然、太ももとかお尻に手が逝ってしまう訳です。しかも当時の小学校の定番体操着だしw爽やか黒川君には何の邪心も無いんだけどエロジャイアン山口はバファローズ帽被って「あいつ、触ってる!」叫ぶのだw

前半は昭和当時の流行風俗としてローラースケートとかエレクトーンとか懐かしー娯楽が登場する一方、黒川君に感化されてクラスは野外実習を始めたりして、ここで「生態系」というものを習います。つまり、山口が蜂に刺されたら黒川君のおしっこで消毒して治すんです(笑)

前半部に関しては、夕子&広志の兄弟と福島出身黒川君が絶対善、対してバファローズ帽山口ら三バカトリオが悪!と児童映画として考えるとむしろ教育に悪いんじゃないかと思う程に善と悪がはっきりと描かれ、なんだからしくないなあと思うが、主役はお母さんですからw

お母さんの弓子に対するつうしんぼは作中で一度も登場しません。思うに、この映画をクラスのみんなで鑑賞した後に、先生が生徒たちにお母さんの通信簿を付けさせて実習する、そんな前提で制作したのかなあと思いつつ、それにしては弓子は随分とブラックな女なのであるw

夕子目線で言えば、喧嘩しながらも立場を尊重してお母さんのために掃除洗濯炊事、弟の面倒から家の細々とした仕事をお母さんのように頑張って来た夕子。それに対し、仕事にかまけて家を振り返らない弓子のことを、無邪気な広志は「お母さんがお父さんみたい」と表現。

夕子は小学5年生だから思春期の始まり。女の子は男の子より成熟するのが早いから、もうお母さんと対等な目線であれこれ正論も戦わせて、それが弓子のプライドをズタズタに(←出版社勤務なのにアカンやろw)夕子は半分大人、広志と相談してある仕掛けを思いついた。

お母さんの誕生日、内緒でケーキとか豪勢な料理を作って「お母さん、誕生日おめでとう!」とサプライズでお祝いしたい。こんな健気な少女、今時いますか?お母さんには「イタリア料理をふるまうわ。スパゲッティ」なのに広志君「ハンバーグがいい(^^)/」主張するのが無邪気すぎw

そしてお母さんの誕生日当日、弓子は仕事先の飲み会で夕子との約束をすっぽかし、編集長のおじさんと同伴帰宅(←この瞬間の夕子、完全に凍り付いていて笑えねえ)夕子はワーンと泣き出して外に出た。広志はちゃっかり弓子と一緒にケーキ食べてる、どこまでも無邪気なんだよw

ダラダラとした前半の中でキラリと光る、夕子が黒川君に触発されて自然に興味を抱いたのを知って、無邪気な弟の広志君が「僕、いいとこ知ってるよ」夜闇の中を姉弟の二人で懐中電灯持って雑木林に入って行くとキレイに光って飛ぶホタル。この映画、ここで終わっても良いと思ったw

夕子は思った以上に大人びていて、長野に住む祖父母から弓子宛てのハガキ「孫を連れて夏休みに来てくれるんだね」手に「そうだ!」(←そうだ、じゃねーよw)家出じゃなくて祖父母の家に行けばいいのよ(←でも東京から長野までスゲエ遠いよ)ここから始まる旅映画。

ということで、降り立ちました長野県北安曇郡の大糸線「信濃森上駅」当時の駅舎や駅前ロータリーはそのまま貴重な映像資料!今は廃止になったと思われる「小谷(おたり)温泉行」路線バスに乗って終点で下車。合掌造りの祖父母の家は長野県北安曇郡小谷村にあるのだ!

こんな遠くまで、夕子と広志が小児運賃とは言えwそんな大金どう工面したのか?とか野暮なことは置いといてw祖父母は二人で長旅で会いに来た孫二人に超感激!そして、血眼になって我が子たちを探す弓子はようやく、自分の行いが間違っていたことに気づいたようだ。

弓子はお父さんがなぜ亡くなったかを夕子に話した。ダムの建設現場での事故。水害に遇って帰らぬ人となった今は小谷村の実家の仏壇に祀られている父に夕子は手を合わせた。そして弓子と一緒に黒部ダムを訪れると、力一杯「おとうさーん!」と叫び、声はこだました。

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