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佐野和宏「バット・オンリー・ラヴ」

2022年2月新宿ケイズシネマで、佐野和宏「バット・オンリー・ラヴ」

でも、愛だけがあなたの心を壊してしまうのよ
But,Only Love Can Break Your Heart.

下喉頭がんで声帯を失った佐野和宏監督が、最後に撮ったピンク映画以来、18年ぶりに映画監督として復活したという惹句とは裏腹に、佐野の長年連れ添ってきた妻(円城ひとみ)、ひょんなことからスワッピング相手(酒井あずさ)、血の繋がっていない娘(芹澤りな)女優3人のライトなエロを感じるベースはピンク映画の良作。

プロットが雑と言う訳じゃない。娘の父親がホントは俺じゃなかっただなんて・・・というのを「それまで知らなかったなんておかしいんじゃねーのw
」とかツッコんだらダメである。これは「そういう設定」から夫婦の在り方、男の生き様を、男の論理、男の視点で描き、魂は救済されるのかどうか?を問うお伽話である。

実際に自分が家庭内でどういう夫であるのか?により見方が正反対になるかもしれない。奥さんのことをずっと愛し続けた人なら、佐野に天罰は下って当然と思うだろうし(私はこっち派)贖罪を続けたと自認する懺悔男が救済されると信じる男は恐らく、夫婦関係にやましい所がある(笑)一筋縄ではいかない、と言う意味で、良く出来てる。

佐野の妻を演じる円城ひとみは母性愛に溢れた典型的な良妻賢母に「見える」飯島が連れてくる内縁の妻を演じる酒井あずさは性欲と金銭欲で生きる悪女に「見える」でも、これは「見える」だけであり、佐野の脳内で既に変換されている可能性がある。それが人生と言うものだ。

この作品には2面性がある。ピンク映画という独自に進化した文化の優れたフォーマットが紡ぎ出すご都合主義と唐突な濡れ場のイメージが持つなんとなく芸術性、それに佐野監督が自身を重ね合わせた声帯を失った初老の男性が周囲の女たちに愛を叫ぶが受け入れてもらえない絶望の物語。

一見すると、家族がいったん壊れて再生する話に見えがちだが、私は全くそう思わない。佐野の家族、夫婦と一人娘の三人の関係は繋がっているようで繋がっていない。元々、家族とは他人同士の集合体である、という醒めた家族観に基づいているようにすら感じる。

元々がピンク映画だったのでは、という印象は、キャスティングにも表れている。ダブル主演は円城ひとみと酒井あずさ。佐野和宏と飯島洋一は、本来なら女優二人を温泉に泊りがけのスワッピング旅行に出かけるという不倫ものピンクで女優を引き立たせる要員で十分だった。

ところが、佐野監督は自身がメガホンを取ることで、映画の内容を大幅に変質する。尺も90分もらえたし、主人公を「佐々木宏」という役名にすることで、下咽頭がんで声帯を失った初老の男に設定することで、そして女遊びが過ぎて後に神の手で天罰を受ける姿は佐野自身なのかどうかわからないが、極めて極私的な設定のようにも思われる。

冒頭から、手前は平穏、抜け出せば雪が降っている、ほの暗く輝くトンネルを抜ける主人公の佐野は、まるで母親に甘えるように妻のひとみを抱いている。おっぱいに顔を埋め、乳首を吸っている。ひとみとの夫婦生活は円満で、そのまま死ぬまで添い遂げたい、日本史の教師である佐野は、鼻持ちならないインテリで若い頃の女遊びは激しかったが、病気に罹り生活は一変した。

声帯を失った彼は、妻の深い愛情を知った。2歳の不良中年になって、一人で映画を観に行く妻を背後から抱きしめる。そんな平凡な人生を終わりたかった佐野に訪れた試練、それは一人娘のりなが「私はO型。お父さんはO型でお母さんはAB型。私、お父さんの子じゃないよね」それを知ったのは不妊治療。佐野は愕然とした。

ここから始まる、佐野の脳内に球形ガスタンクにカンカン鳴る踏切の点滅するランプが反射し、誰か知らない男に抱かれてエクスタシーに達するひとみの喘ぎ顔。夕飯を準備していたひとみは、食事もせず飲みに出かける佐野に唖然とするが、佐野は近くの居酒屋で運命の人物と出会う。それは僧侶の飯島洋一であった。

飯島は娘ほど年の離れた若い嫁さんの酒井あずさがいるという。ナマグサ坊主の飯島は色気ちがいで、あずさと毎晩のようにヤルだけでは飽き足らず、スワッピングを持ちかけてくる。飯島は心臓が弱く、バイアグラで勃起させていた。あずさは飯島が死んで遺産が転がり込んでくることを心待ちにしており、このスワッピングも飯島の容体悪化を促進するチャンスと捕らえた。

りなは、カラオケに出かけてストレスを発散する。大音響の歌が溢れ出し、画面は大きく揺れた。佐野は眠っていると、ブラとパンティだけのあられもない格好をしたりなが「ねえ、血が繋がってないってことは、私のお父さんじゃないのよね」身体を重ねてくるりなを妄想し、激しい自己嫌悪に陥る佐野。彼は声帯を失い心身を弱める前はブイブイ言わせていて、愛人(蜷川みほ)まで作っていたが、病気を境に、彼女とも縁遠くなっていた。

佐野は居ても立ってもいられず、映画を観て「面白かったよお」と感想を言ってるひとみに憮然とした表情でボードで言葉を殴り書きするが「そんな汚い字、読めない」どうも妻の様子がおかしい?佐野は夜、寝ていても寝付けずに悪夢を見る。

ひとみが他の男に抱かれて、その姿は横に広がったり、にじんだりして崩れていく。佐野は言葉を発せず、ボードを使って会話していたはずなのに「お前のせいだ、お前のせいだ・・・」なんども呟いた。それはひとみに対して言っているのか?浮気相手に対して言っているのか?それとも自分自身に対して言っているのか?夢の中で彼は発声した。

飯島の誘いに乗り、妻のひとみとともに温泉泊りがけスワッピング旅行に出発する佐野。明らかに乗り気でないひとみは、どうして良いか分からず戸惑うばかり。好色な飯島は佐野にピンクローターを渡し「これであずさと遊んどけ」自らは助手席にひとみを座らせ、いざ温泉にレッツゴー!でも、ひとみはパンティの上から股間を弄ろうとする飯島を激しく拒んだ。

佐野は後部座席で、あずさのアソコには既にローターがぶち込まれていて、スイッチを押すだけであずさが感じているのが分かった。あずさの股間をガン見しながら夢中でスイッチオン、オフを繰り返す佐野。グショグショにアソコを濡らしたあずさはセックスの準備OKだ。後は、飯島がひとみとヤッてる最中にぽっくり死んでくれたら、位にしか思ってない。

ドライブインで休憩中、あずさはソフトクリームを買って「あなたも舐める?私、病気は持ってないから」明らかに風俗嬢だった過去を開陳しつつ、相手する良妻賢母だったひとみは戸惑うばかり。そして温泉宿に到着し、男風呂、女風呂でともに今夜のスワッピング計画を温める飯島&佐野と、あずさ&ひとみ。あずさは「綺麗な肌、してるわね」これから飯島に抱かれるひとみを想った。

そして、宴会が始まった。あずさは、胸をはだけ、おっぱいに日本酒を垂らすと「吸って♡」赤ちゃんのようにチューチューと吸う佐野。飯島はホンの一瞬、鬼面に変わり、大事な嫁のひとみを座敷に連れ込むと、ぴしゃりと襖を締めた。飯島は持参した極太バイブをひとみの口に突っ込み振動させ、瞳は快感によがり始めた。

あずさは佐野のチ〇コを頂こうと手ぐすね引いて待ってるが、佐野はしとやかな妻だったはずのひとみの喘ぎ声を聞いて「こいつ、やっぱり淫乱だったんだ。りなは一体、誰の子供なんだ!」気が付くと、旅館を飛び出して夢中で走っていた。哀しく煌めく温泉街の寂れたサイン。あずさから携帯電話が来たのは明け方であった。

佐野が急いで旅館に戻ると、飯島が心臓発作で倒れて亡くなったという、心底嬉しそうなあずさを見てギョッとする佐野は「奥さん、帰ったわよ」と聞いて更にギョッとする。襖を開けてみれば、もぬけの殻であった。怒り心頭に発した佐野は、ボードに何か書いて見せるが知らんぷりして出ていくあずさ。佐野はボードごと押し付けた。

あずさは一人で家に帰ろうと車に乗り込んで、思い出したようにボードを見ると「お前はそんなことをして心が痛まないのか?」あずさは、大人なのにバッカじゃねーのと笑いながら、走り去る。そして、佐野は雪の積もる駅のホームで、寂しくひとみに電話した。

ひとみは携帯電話を持って、雪が降り積もる田んぼのど真ん中に立っている。そして打ち明ける真実。「私は不妊を悩んで産婦人科に通った。原因は私でなくあなたの方にあった。だから人工授精してりなを産んだ。でも血液型のことまで頭が回らなかった」妻の隠し事に全く気付かなかったことに、今更ながら呆然とする佐野。

佐野は帰宅するが、ひとみは行方不明のまま。りなを残して「あそこにいるに違いない。だって、あそこがひとみとの思い出の場所だから」佐野は急ぎ足で海へと向かった。そして、考え事をした後、フッと振り返ると、そこにはいつもと変わらぬ街の遠景。

But,Only Love Can Break Your Heart.

佐野の目の前にいないひとみが佐野に語り掛ける「でも、愛だけがあなたの心を壊してしまうのよ」



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