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タコの捕り方(月夜編)

タコはやっかいだ。

港でイカをねらって釣りをしていると、たまにタコを釣ることがある。イカは釣り上げたらほぼ安心してよいが、タコはそうはいかない。

釣り上げると、すぐ餌木(えぎ…擬似餌)を外して、そのぬめりをバケツで洗い流す。「まあいいや、タコもうまいし…。」なんて思いながらふと振り向くと、時すでに遅し…。後ろに置いたはずのタコは、すでにスタコラサッサと岸壁を降りてる最中なんてこともある。「こらこらっ!」慌てて追っても彼らの動きは速い。

イカは逃げない。タコは逃げる。そもそもイカ釣りに来ているから完全に釣る側がタコ相手に油断しているのだ。ついイカと同じように扱ってしまい逃げられる。

やっかいな理由のもう一つは数多くある強烈な吸盤だ。たとえ捕まえたとしても、8本の足で岸壁に貼り付かれたらなかなか引き剥がせるものじゃない。ぬるぬるする上剥がれない。この大変さは想像できるだろう。さらに逃げようともするのだ。「こらこらっ!」が「おい!こらあ!待てっちゅうに!この野郎おぉ、観念しろやあぁ!」ぐらいになってしまう。

だからタコはやっかいだ。

水がなくても移動するし、あちこちに貼り付いて抵抗もする。イカとは海から出てからの生命力に雲泥の差がある。


でも、私にはこのやっかいなタコを簡単に捕る技術がある。

実はタコには「月夜が好き」という粋なところがある。満月にはよく陸に上がって家族で月を愛でるのだ。私はこの習性を利用して、あっという間にタコたちを仕留める。

まず美しい月夜を選ぶ。場所は海側に月が上がるところでないといけない。タコの家族は静かに月夜を味わいたいので、やはり喧騒からは離れた場所がベスト。この条件さえ満たせば、まあほぼ目的のタコたちには巡り会える。

準備するのは少し長めの軽い棒。足音のしにくい靴。入れ物。


私のタコ捕りはだいたいこんな感じ。

さあ月夜の晩だ。前もって探しておいた海岸に到着。さっそく海沿いに降りてみると、海の上には美しいくっきりな満月。波に揺れるもう一つの月とのコラボも素晴らしい。タコでなくてもつい見とれてしまう。私には「もう今日はタコより月見…。」そんな日もあるぐらいだ。

しかし、ここはそれをぐっとこらえなければタコにはありつけない。月を眺めてしまう誘惑を我慢して周囲をそっと見渡す。よく見てみると、たいがい何家族かは月見に出てきている。もちろん、タコたちは、うっとりと海側を見つめているので、後ろからそっと音のしにくい靴で近づく私には気づかない。

さあ、いよいよだ。
何家族かの中から、特に月に夢中になっている家族を探す。その中でも、私は横一列に並んでいる家族を重視する。先ほどよりさらに慎重にタコたちに近づいていく。最終的な距離は、準備した棒が全員の頭に届く程のところ。

私の前には、正面の月に身じろぎもしないタコたちが並ぶ。私は用意してきた棒をそっとタコたちに頭上に掲げる。ここからが大事だ。頭をたたくのだが、強すぎてはいけない。タコの次の行動を導くには加減がある。

せーのっ!

ポコン ポコン ポコン ポコン

今日は4人家族だ。叩き方もバッチリ丁度いい!

あいたっ! あいたっ! あいたっ! あいたっ!

4人とも8本の手ですぐに頭を押さえた。即座に私は

ヒョイ ヒョイ ヒョイ ヒョイ

と持ち上げた。
あとは、準備した入れ物に投げ入れるだけ。
かーんたん。

ただし弱すぎると「あいたっ!」に8本使わない。強すぎると全力で吸盤が貼り付く。
私みたいになるまでには経験を積む必要はある。


タコはやっかいだ。

しかし、すべての吸盤を自ら放棄するこの瞬間を演出できれば仕留めるのは容易い。

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