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アカデミック眉毛処理

 たいていの女子は中二で一度、眉毛を失う。
当時はセブンティーンの榮倉奈々に憧れたかと思えば、NANAを読んでナナやハチの大人な恋模様に、胸躍れせていた。あんなキラキラしたものを見てしまうと、鏡に映る自分とのギャップにいたたまれなくなり、眉の一つもイジりたくなるものだ。

 失い方は様々で、たいていの加減を知らない若人達は、雅なマロ眉を錬成させてしまう。気合の入ったギャルだと、振り切って全剃りまで行ってしまったり。こういうタイプは、なんだかんだ世渡り上手で、その後の人生も持ち前のノリと勢いでうまいこと生きている気がする。

 4月からの新生活、これまでの自分を捨てて、心機一転したい人も多いことだろう。そんな気持ちで鏡を見たときに、一番気軽にイジれるのは、

やはり眉毛ではないだろうか。

というのも、春から社会人になる我が弟が
「姉、オレこれから眉毛処理するから、おかしくないか見といてくれん?」と言うのだ。弟が私に何か聞いてくるのは非常にレアだ。

 私とは違い、辛抱強く勉学と向き合って、理系の院を卒業した男。無償奉仕の研究室から解き放たれた男は、面構えが違う。たいていのことは自分で解決してしまう男も、ほぼ初めての自分でする眉毛処理は、目前に迫った入社日も加味し、さすがに失敗が怖いようだ。

 姉ぶれるチャンス到来だ。中二から培った、この技術で眉の保証人となってしんぜよう。まずは医療脱毛に通い始めて買わされた、この肌を傷つけないシェーバーを見せてやろうと、紋所のように目にはいらせようとしたとき

「眉毛の処理セットは、もう買って用意しとるんよね」と弟は、オペ器具のように、きれいに収納された眉毛処理キットを登場させた。この時点で、中二の私とは装備が違う。

「まずは鼻のサイドからの延長線上が眉尻に…」と言いかけると、「それは知ってる」と言う。なんでだよと聞くと、今はユーチューブやツイッターでいくらでも情報は得られる。あまりの充実した眉への初期装備に、中二で肌に優しくもない剃刀と、榮倉奈々の画像で、眉に挑まざるを得なかった自分を哀れに思わずにいられなかった。

 じゃあ私は何をすればいいのかと思ったが、実体験からくる意見が欲しかったらしく、この眉毛コームで毛を抑えながら、カットしても、本当に大丈夫なのか聞きたかったらしい。

 何だか完璧に滞りなく進む作業に、わびしさも感じながら、残念ながら大丈夫だと伝え、石橋をスターマリオで通過した弟は、マロ眉を確実に回避し、入社式へ挑むのであった。
 
 

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