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[西洋の古い物語]「楽しきイングランドの聖ジョージ」(第3回)

こんにちは。
いつもお読み下さり、ありがとうございます。
聖ジョージのお話の3回目、竜を退治し、王女と父王の感謝と歓待を受けた聖ジョージに、恐ろしい裏切りの罠が仕掛けられます。
ご一緒にお読みくださいましたら幸いです。

※画像は沙羅の花(夏椿とも)です。福崎町の應聖寺にて。今年のシーズンもほぼ終わり、落花が目立ちましたが、名残の一輪を写真にとどめました。鶯と時鳥が鳴き交わす、静かな山あいのお寺です。この時期だけお抹茶とお菓子(「沙羅」という名の品の良いお菓子です)をいただくことができます。

 
「楽しきイングランドの聖ジョージ」(第3回)
 
さて、王の名前はプトレマイオスといいました。あの恐ろしい竜が本当に殺されたのを見ると、王は町中を飾りつけるよう命令を出しました。そして王は、聖ジョージを宮殿に迎えるため、黒檀の車輪をつけ、絹のクッションを置いた黄金の馬車を差し向けました。そして、100名の貴族たちに、真紅のビロードの服をまとって、立派な馬飾りを付けたミルクのように白い馬に乗り、栄誉を尽くして彼を宮殿へと護衛するよう命じました。道中、音楽家たちは馬車の前後を歩き、あたりを甘美な音楽で満たしました。
 
それから、美しいサビアが疲労困憊した騎士の傷を手ずから洗って布で巻き、至純の水のようなダイヤモンドの指輪を婚約の印として彼に与えました。そして、王から騎士道の黄金の拍車を授けられ、豪華な宴席にあずかった後、彼は疲れを癒やすため床につき、美しいサビアは彼女の部屋のバルコニーから黄金のリュートを奏でて彼を眠りへと誘いました。
 
全てが幸福に思えました。しかし、ああ!秘かな不幸が迫っていたのです。
 
肌の黒いモロッコの王アルミドールは、もう長い間サビア王女に求婚してきましたが、良い返事をもらえずにおりました。アルミドールには彼女を守る勇気もなかったのに、乙女が自分を守ってくれた勇士にすっかり心を捧げたのを見ると、勇士を破滅させてやろうと思い定めました。
 
そこで、プトレマイオス王のもとへ伺候し、アルミドールは王に告げました。それは偶然、本当のことだったのですが、「麗しいサビア様が聖ジョージに、キリスト教徒になって彼に従ってイングランドへ行くことを約束なさいました」と、アルミドールは王に述べたのです。すると、そんなことを考えるだけで王は怒り狂い、恩義も忘れて、卑劣きわまりない裏切り行為を行う決心をしました。
 
王は、愛と忠誠心を示すためさらなる試練に耐えてほしいと聖ジョージに言って、彼にペルシャ王への書簡を託しました。王は、彼が愛馬ベヤードに乗っていくことも愛剣アスカロンを携えていくことも禁じました。それどころか、愛するサビアに暇を告げることさえ許しませんでした。
 
聖ジョージは悲しみに満ちて出発し、数多くの危険を乗り越えながら、ペルシャ王の宮廷に無事到着しました。しかし、彼が運んだ密書は、その運び手を死刑に処することを強く求めるものに他なりませんでした。そのことを知った彼の怒りはいかばかりであったでしょう。しかし、彼にはどうしようもなく、判決が下されると彼は忌まわしい地下牢に投げ込まれ、卑しい奴隷の衣服を着せられ、両腕は鉄の枷にきつく縛められました。そうする間にも、じきに彼を貪り喰らうことになっている二頭の腹を空かせたライオンの、耳をつんざくばかりの咆哮が聞こえてきます。

この邪悪な背信行為への憤りと怒りは彼に力を与えました。彼は力を振り絞り、枷を留めているU字型の釘を引き抜きました。こうして、ある程度の自由を得ましたので、彼は頭から長い琥珀色の髪の束を引き抜き、それを籠手のかわりに両腕に巻き付けました。このように身を固めますと、彼に向かって放たれたライオンたちへと突進し、腕をライオンの喉深くに押し込んで窒息させました。そして彼らの心臓をもぎ取ると、恐怖で震えながら立っている獄吏らに向かって彼は意気揚々とその心臓を掲げました。
 
このことがあって後、ペルシャ王は聖ジョージを死刑に処すことを断念し、地下牢の柵を二倍に増やして、その中で彼が憔悴するがままにさせておきました。その地下牢で不幸せな騎士は7年間も過ごしましたが、彼の思いは失ってしまった王女のことで一杯でした。ドブネズミや二十日鼠や這い回るうじ虫が彼の唯一の友、食べたり飲んだりするものといっては、粗いふすまで作られたパンと汚い水があるだけでした。
 
ついにある日、地下牢の暗い片隅に、彼は自分が憤りと怒りにまかせて引き抜いた鉄釘の一つを見つけました。それは錆で半分朽ちていましたが、それでもそれを手に独房の壁の下から王の庭園へと抜ける通路を掘り抜くには十分でした。

全てが静まり返った夜のことでしたが、聖ジョージが耳を澄ませると、厩舎の中から馬丁たちの声が聞こえてきました。厩舎に入ってみると、二人の馬丁が一頭の馬に何かの用事に備えて馬具を装備しているところでした。そこで、聖ジョージは牢獄から自身を解放したあの釘を手にすると、馬丁たちを殺しました。そして、その馬に跨り、町の門へと大胆にも駒を進め、真鍮の塔にいた見張の兵に向かって、「聖ジョージが地下牢から脱走したので火急の追跡中である」と告げました。これにより門は開け放たれ、聖ジョージは馬に拍車を当てました。そして、太陽の最初の赤い光が空に放たれるよりも前に、自らが無事逃げ切ったことがわかったのでした。(続く)
 
 
「楽しきイングランドの聖ジョージ」第3回はこれでお終いです。

このお話の原文は以下の物語集に収録されています。

今回もお読み下さり、ありがとうございました。
次回をどうぞお楽しみに。

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