戯曲(断片)『コントローラーを握りしめろ!』
男 アートな手触りで行きたいんだよね。
私 はあ。
男 例えば、これは昨日僕が書いた絵なんだけど、何に見える?
私 ○○
男 へぇ。そう。へぇ。でも違うんだよ。これはね、自画像。
私 えー。
男 自画像なんだよ。……俺はいつまでたっても自画像しか書けない男なんだよ。
私 はぁ。
男 そういう君だって、自画像なんだよ。
私 わたしがですか。
男 そう。俺が描いた。
私 性別、違うくないですか。
男 うん。
私 というか、私、絵じゃないし。
男 絵じゃないね。
私 どの辺が、自画像なんですか?
男 記憶ないでしょう。あなた。
私 うん。記憶……記憶、記憶は、ない。
男 どこの誰ですか?
私 え? あれ、誰、私、誰?
男 自画像なんだよ。お前。
私 自画像なんですか。私。
男 そうだよ。だから、お前に愛はないんだ。
私 愛、だと。
男 そう。ラブ。
私 よくわからない。
男 愛を知らないお前に一つミッションがある。あなたはこのミッションを引き受けますか?
選択肢が出る。
私 いいえ。
男 まあいいさ、お前にもやがてわかる日がくる。そのときにまた会おう。(男は帽子を被る)やあ、僕はピギー。ビッグドワーフのピギーだよ。僕の店にようこそ。セーブしていくかい?
私 あれ、
男 やあ、僕はピギー。ビッグドワーフのピギーだよ。僕の店にようこそ。セーブしていくかい。
私 えーと、
男 やあ、僕はピギー。ビッグドワーフのピギーだよ。僕の店にようこそ。セーブしていくかい。
私 あの、ピギーさん? この辺に男の人いませんでしたか? その、帽子を被ってない男の人です。帽子以外はとてもあなたに似ているの。
男 やあ、僕はピギー。ビッグドワーフのピギーだよ。僕の店にようこそ。セーブしていくかい?
私 ・・・・しない。
私とピギー(仮)、30秒近く睨み合う。やがて、じりじりとその場から消える去るピギー。ノートを落とす。私はノートを拾う。
私 なにこれ?
システム、挙手をしながら出てくる。
システム あ、はい。それセーブポイントっす。セーブするために使えます。
私 セーブ? 誰?
システム あ、僕、システムっす。ども。ちわっ。
私 よかった。
システム え、なにがすか?
私 ほら、
システム え?
私 通じ合える。私、マトモな会話に飢えてたの。
システム はぁ。そっすか。あの、説明に移らせてもらっていいっすか?
私 栃木県出身でしょ?
システム 違いますけど、ってかどこっすか?
私 わかんない。なんか、色んなことがわかんなくて。栃木県もその一つなの。
システム まあまあ。落ち着いてください。参ったなぁ。
私 普段なに食べるんですか? えーと、
システム システムっす。
私 システムさん。カレー?
システム カレーじゃないっす、ってかカレーってなんすか?
私 わかんない。システムさん優しい!
システム あの、ごめんなさい。ちょっとワタシ、時間がなくて。あの、諸々省略させてもらいますね。語尾とか。気遣いとか。あの、これ(ノート)セーブポイントね。あなたにはこれから定期的にセーブしてもらいます。
私 なぜ?
システム 疑問を持つな。字はわかる?
私 字? ごめんなさい。なんでしたっけ? でも、その前にちょっとお話ししませんか。今いらないですよね。字は。
システム ごめんなさい。ぼく、ホント色々限られてて。字と言うのはね。(ノートに書く)これ。
私 ああ、なんか、わかります。これ、どうすればいいんですか?
システム どうしてもいいんです。これからあなたが思うこと、したこと、しようと思ったこと。できなかったこと。なんでも字にしてみて。それがとても大事だから。えーと、じゃあ、セーブする?
私 しない。好きなカレーのタイプは?
システム さよなら。あ。まじで何か質問ない? おそらく今生の別れだけど。
私 したじゃん今。忘れっぽいんだなぁ。
システム 行くね。
私 ありがとう!
システム え?
私 とりあえず、お礼いっとけって思った。いま、私記憶ないけどね。思ったの。
システム キーマカレー。
私 なに?
システム キーマカレーだよ。今生の別れだから。君の中で僕の好きなカレーがブラックボックスであるより、そこに何かしらあった方がいいと思った。もちろん嘘かもしんないけどね。むしろ、何も情報もない方がミステリアスかもしれないけど、君はわざわざ僕のこと思い出して、そのミステリーを追わないでしょう。だからキーマカレー。どうかセーブを忘れないで。
私 うん、セーブしとく。あなたは、キーマカレーの人。
システム くそーもっと時間があったらなー。システムでしたー。
システム消える。
私 さよーならー! ・・・・・・(ノートに書く)彼はキーマカレーが好き。彼、キーマカレー。うん、語呂がいい。すごい、よく気づくなアタシ。ゴロがいい。カレーゴロゴロ。彼は、キーマゴロウ。ゴロキーマ? マキゴロウ。ふひひ、たのしーな。
しばらく行くと、
文字「性格を選んでください」
私 性格を選んでください?
Aめめしい
Bりりしい
Cたのしい
文字「生まれた所を選んでください」
D島
E TOKYO
F STATE
音楽を選んでください。
A,B,Cいくつか流れる。
私 ちょっと考えていい? ……(少し考える)性格はねぇ。「たのしい」性格がいい!
→めめしい
私 生まれたのはね。そうだね。ステイツだね。なんだか立派だもん。
→島
私 音楽は、なんでもいいや。
→なんでもいい
私 すごい! 全然選べない! ……(かなしい性格が突然やってくる)あれ? なんか、全然楽しくない。あれ?
天気
→雨
雨が降る。音楽がうるさい(大きいというより鬱陶しい)
私 なんか、うるさいな。
行き止まりに遭う、だってここは島だ。
私 ああ、また行き止まりだ。ここは海に囲まれているし、どこへ言ってもすぐに行き止まる。
(続きは書かれていない)