戯曲(?)

一幕一場 劇場版「ウェルメイド」第一稿

登場人物:サノ・ジロー

     カトー・ヨタロー

     エミリー

   病室のような空間。

   そこはスタジオである。

   カトーにスポットライトが当たっている。

カトー 眩しい。

エミリー うん

カトー 見える? 麦畑?

エミリー 見える。

カトー そうか。

エミリー うん。

カトー 最後の一服だ。

エミリー カトー。

カトー エミリー。

   カトー、手を差し伸べる。

   エミリー手を握る。

カトー 違うよ、巻いてくれって言ってんの。

エミリー 巻く? なにを?

カトー いいよ、巻いたってことで。(何かを吸うジェスチャー)

エミリー ねぇカトウ、最後に一つだけ言わせて。 

カトー なんだいエミリー

エミリー 喫煙はあなたにとって、肺がんの原因のひとつになるわ。もしあなたが妊婦なら、生まれてくる子供に悪影響を与えるわ。

カトー エミリー、僕は妊婦じゃない。

エミリー そう。でも、なにが悪ってことは、あたし一概に言えないと思うの。あなたの妊婦じゃないってその発言も、見ようによってはものすごくワルだわ。あなたは妊婦じゃないの? あなたが孕ませた大勢の女たちには、あなたをあなたを孕ませることは出来なかったのね。

カトー ちょっと待って。

エミリー でも、だめ、あたしったらいくじなし、ほんとはこんなことがいいたかったんじゃない、つまり、あなたが命より、煙草が大事って言うなら、それを否定することは、誰にも出来ないと思うの! そう、あなたが命より愛した、この革命のように。

カトー ちょっと、すみません

サノ カット!

カトー やっぱこの台本やりにくいんですけど。ちょっと脚本家さん。おい。脚本家!

   カトー、スタジオに舌打ちされる。

サノ ストップストップ。

   スタジオが通常の明かりになる。

カトー おまえ、CM見たことない?

脚本家 えーと、

カトー ないね、これはね。なぁ、ディレクターこいつ、CMっていう概念が、よく呑み込めてないよ。局の洗脳室で、こいつにCM脚本の神髄ってモンを

サノ 馬鹿野郎。役者風情が何抜かしてんだ。役者ってモンはよぉ、そういうんじゃないだろうがよぉ。

カトー そうはいってもディレクター、こいつに、CM脚本のイロハってやつを叩き込んでやって下さいよ。あんたもむかしは

サノ うるせ!

カトー (脚本家に)おら普段なにしてんだおらぁ。休日は何にしてんだって聞いてんだよ。ガーデニングか?

脚本家 し、詩とか書いてますぅ。

カトー しねよ! 

サノ 10分休憩!

   がやがや。脚本家以外、一斉に煙草を吸うテレビマンたち。

サノ ま、この業界、終わってるからな。こいつ(煙草)と一緒さ。

カトー やる気なくすこと言うなよ。

サノ いやー世界の終わりだよ。

エミリー 業界の終わりが?

サノ 世界の終わり。業界人間にとってはな。

エミリー 業界人間エックス。

サノ ギュィイーン。

カトー なぁ、ギャラ出るんだよな、今日。

サノ 今日は出るよ、今日は出したい。

カトー も、煙草でいいよ。

サノ まじかよ、こころざしだな。

 業界の終わりは世界の終わり、それが口癖の、素敵テレビマンを思い出し、サノ・ジローは薄く微笑むと、屍の眠る土のうえにシャベルを突き刺した。

 朝靄、町外れ、何もかもがしっとりしている。近くの森から聞こえる鳥獣の鳴き声、虫の音、すべてが寒々しい。汗を拭うまでもない。

 サノ・ジローはGW明けからお笑い芸人を次々と処分していた。増えすぎた芸人(とくに話芸の他に能のない幇間連中)は社会問題となっていたのだ。当初は、ついに臨界が来たのか、と感慨を隠せなかったサノだが、今や手慣れた。今朝葬ったのは往年の大芸人。30年もの古樽だった。

 しかし参った。人殺しは慣れない。と思ったのも当初の初々しい感想で、いまやこれなしでは寝られない、といった具合。


インタビューに応じたサノジローはいう。


僕は管理社会が大好きなんだ。

誰かに見張られているって本当に安心する。

番号で呼ばれると、温かい気持ちになる。

自分がこの世界に必要な歯車であることを認識してセックスの10倍ぐらい気持ちいいんだ。