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物語は要りませんか?-あらすじ②-【ダリア】
仲郷薫は27歳の会社員。職場のひとつ年上の先輩・内海璃子に恋心を抱いていた。
生真面目で完璧主義の璃子は、仕事に一切の妥協がなく、他の同僚からは煙たがられていたが、薫だけはいつでも璃子の味方だった。明るく素直で社交的な薫は、他の女子社員にも好かれていて、「内海さんのことはあきらめな」と、忠告も受けていたが、それでも璃子に告白し続け、そして毎回のように断られ続けていた。
そんなある日、薫は璃子がダリアの花束を抱えて、雨の中を歩いているのを目撃する。
よほど大切な人からの贈り物なのだろう。愛おしそうに抱いたダリアの花束……薫は送り主に嫉妬する。それ以来、ますます璃子のことが気になって、彼女を観察していると、スマホの待ち受けにダリアの花籠と「I LOVE YOU」のメッセージが。
さらに、飲み会で珍しく酔った彼女を送っていくと、マンションの扉の前にも、ダリアの花束が。その上、会社にまでダリアの花束が届けられるようになり、璃子も幾分、戸惑っている様子だった。そこで薫は璃子に、送り主のことを聞いてみた。適当に、あしらわれても、ごまかされても、何度も何度も、しつこく聞き続けた。
すると……「絶対、秘密にしてよ」という前置きとともに、意外な話を打ち明けられた。
実は彼女は、高校時代の同級生で、今や大人気ロックシンガーとなった相馬丈流の恋人だというのだ。彼は、仕事の都合で中々会えない璃子のため、彼女が大好きなダリアの花を、いつも届けてくれるのだという。半信半疑だった薫も、璃子と丈流が一緒に映った楽しげな高校時代の写真も見せられ、一度は納得した。
だが、それにしてはどこかおかしい。
それから数日後の日曜、丈流と若手女優の熱愛報道がされ、会見を行った丈流は、何と関係を認めた上で、結婚を前提にしているとまで公言。テレビで見ていた薫は仰天する。
しばらくするとそこへ、雨でずぶ濡れになった璃子が訪ねて来た。
扉を開けると、彼女は泣きながら、薫の胸に飛びこんだ。
「薫くん、抱いて……」
「璃子さん、本当に……いいの?」
そのまま、薫は璃子と関係を持った。
愛する人と甘いひとときを過ごした薫は、夢見心地で、丈流とは別れて自分の恋人になってくれと璃子に迫る。しかし璃子は、急にしらけた表情になり、薫を突き放すと、これで浮気者の丈流に意趣返しできたとつぶやく。
自分の気持ちを利用されたと知った薫は怒りを露にするが、璃子は「丈流は昔からああだったもの。今度だってすぐに飽きて、私の元に戻ってくるわ」と言い捨て、薫の部屋を後にする。
しかし、さらに数日後、今度は若手女優の妊娠が発覚、とネットニュースで流れる。
あんな仕打ちを受けても尚、璃子をあきらめきれない薫は、璃子のことが心配になり、彼女のマンションを訪ねる。けれど璃子は、新たなダリアの花束を部屋に飾りながら、ニコニコと笑っている。不審に思った薫が、丈流のスキャンダルについて話すと、途端に璃子の顔色が変わった。
彼女は発作的に、ベランダから飛び降りようとしたのだ。
薫に必死で止められ、事なきを得たが、これに怒り心頭の薫は、ファンのフリをして丈流に会いに行き、出待ちの隙を突いて接近。無理やり裏路地に引きこんで、璃子のことを、どうするつもりなのかと詰め寄る。
しかし、丈流の口からは、思いがけない言葉が放たれる。
「は? 内海璃子? 誰だよ、そいつ」
これに驚いた薫が、璃子は高校時代の同級生で、秘密の恋人だろうと怒鳴ると、丈流は困惑しながらも、少し考えてから、こう言った。
「ああ、もしかして、あの地味女? そういや居たな、クラスに……けど、あんなの全然、趣味じゃねぇし、卒業の時、告られたけど、正直言って迷惑だったから、写真一枚だけ一緒に撮ってやって、はいさよならしたわ。それが一体、なんなわけ?」
邪険な言い草に、カッとなった薫は、思わず丈流を殴ろうとするが、それを丈流のマネージャーに止められ、逆に突き飛ばされる。そしてマネージャーは、丈流を移動車に押し込むと、その場から去ってしまった。
だが、これで薫は確信した。
今までの話は、すべて嘘。璃子の思いこみによる、自作自演だったのだと……そして再び璃子のマンションを訪れた薫は、丁度そこに来ていた花屋の宅配業者から、家族のフリをして真相を聞き出す。依頼主の欄には『相馬丈流』、住所は丈流の芸能事務所になっているが、花屋の受付の話によると、ダリアを選び配達を依頼したのは、若い女性だったと……しかも、伝票に書かれたその文字は、確かに璃子の筆跡だった。
宅配業者から、ダリアの花束を受け取った薫は、急に嫌な予感がして、管理人を呼んだ。
慌てて部屋の中へ入ると、そこには……足の踏み場もないほど、部屋いっぱいにまき散らされたダリアと、その中でダリアに包まれて眠る璃子の姿があった。
愕然と立ち尽くす薫。
ダリアには『裏切り』という花言葉もある。
やがて薫は涙をこらえ、冷たくなった璃子の胸にダリアの花束を抱かせると、その耳元にそっとささやいた。
「璃子さん……丈流から、最後の贈り物だよ」
ー終わりー
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