見出し画像

Gary Peacock at Musical Planet


画像1


画像2



ゲイリー・ピーコック(Gary Peacock)

 絵・文 泉井小太郎


Gary

この世から去ったと
あなたの仲間は嘆き
嘘っぱちだと
最初の奥さんは撥ねつけ
みんなおろおろ
あなたはどこに
どうしているのか
もう一度
あなたの指で
あの弦が弾かれることがあるのか
二度と弦は震えることはないのか

 *

禅を学んだあなたは
生きているにしても
死んでいるにしても
(泰然と)雲中座禅
あるいは
(飄然と)雲外独歩
そんなふうではないだろうか


   ♪


九月の初め、Twitterのタイムラインにゲイリー・ピーコックの訃報が流れてきた。最初に投稿したのはスタンダーズ・トリオの盟友ジャック・ディジョネットだと言う。しばらくしてゲイリーの最初の奥さんアネットが、それはHoaxだとコメント。その後いろいろな追悼の言葉が流れる中、ディジョネットが投稿を削除して情報は混乱し出した。少し前に同姓同名のシンシナティのゲイリー・ピーコック72歳の死亡記事があってそれと混同したとか、ECMの正式告知もなく、逝去を惜しむ声と誤報であってほしいという願望が交錯した。生死がどっちともつかないまま、ファンはやきもきして過ごし、二日後になってやっと家族から告知があった。

この詩はそんな不明の最中に書いたもの。アネット・ピーコックに「Gary」という美しい曲があるので、タイトルはそれに寄り添った。


   ♪


ゲイリー・ピーコックは山本邦山の『銀界』で出会って以来、ぼくの琴線を鳴らしてきたベーシスト。同時期に活躍したチャーリー・ヘイデンが低音の太い音塊を震わせるのに対して、中音から高音域にかけての繊細で鋭角な音の紡ぎに特徴がある。
初期にはアルバート・アイラーやポール・ブレイと共演。その後密かに来日して、禅を学ぶ。滞在中何枚かのアルバムを録音。佗・寂が演奏の基本だと何かで読んだが、この頃の音にそれが滲んでいる。殊に菊地雅章とのコラボが絶妙で、二十年後にポール・モチアンを加えて結成したTethered Moonは素晴らしいトリオである。

ベースという楽器でピアニッシモな精神を表現できるのはこの人ならでは。
よく語り、よく翳り、よく弾む。
直接会ったことはないが、二年ほど同じ京都の空気を吸っていた──ということがなにかうれしかったりする。


   ♪


ゲイリー・ピーコック(Gary Peacock)1935 - 2020
ある時自然に弦が馴染んでベーシストに転向。練習はしない由。
フリー・ジャズから、スタンダーズトリオまで時代の新鮮に立ち続けた。
禅・仏教を学んだ哲学的な演奏は多くのピアニストから共演を請われた。

愛聴盤:
○ Paul Bley With Gary Peacock(ECM)
○ Eastward (Sony)
○ 銀界(Philips)
○ Voices(Sony)
○ Tales of Another(ECM)
○ December Poem(ECM)
○ First Meeting(Winter & Winter)
○ Triangle(Paddle Wheel)
○ Tennessee Waltz(Aeolus)
○ Begin the Beguine(Aeolus)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?